最新記事

北朝鮮

再始動した米朝ディールで非核化は進むのか

Summit Fever

2018年10月17日(水)16時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

文はソウルを出発するとき、文と金にとって3度目となる首脳会談が、「金委員長とトランプ大統領の新たな会談に向けて道を開く」ならば、大成功だと記者団に語った。

金はディールに前向き?

韓国にいる脱北者の中で、かつて北朝鮮政府内で最も高い地位にあったとされる人物(韓国政府は安全上の理由から本名を明らかにしていない)は、金がアメリカとの交渉に前向きだと、本誌に語った。その人物によると、金の希望は2つ。いわゆる「体制保証」と「国家経済の繁栄」だ。

金は、「トランプと大きなディール(取引)をしたがっている」と、かつて金一家と家族ぐるみの付き合いだったというこの脱北者は言う。それは朝鮮戦争に終止符を打つ合意文書にアメリカが署名し、北朝鮮の全面的な「非核化」と引き換えに国交を正常化するというものだ。

韓国の文政権は、これまでの金とのやりとりを通じて、この方針に賛成している。左派政権で、韓国政界では北朝鮮に対して軟弱と見なされているが、文政権は北朝鮮を甘くみているわけではない。その文政権が、ディールがまとまる可能性は十分あると考えている。

ただしそのためには、一方的な要求ではなく、双方の行動を義務付ける取引でなければならないことを、トランプ政権は理解する必要がある。つまりアメリカは、北朝鮮が核を不可逆的に解体しなければ何も始まらないと主張するのをやめなければならない。

在韓米軍は切り離し可能

北朝鮮政府は、「終戦宣言は足掛かり、すなわち非核化プロセスの第一歩」 だと考えていると、世宗研究所(ソウル)の鄭成長(チョン・ソンジャン)研究企画本部長は語る。「安全対策もないまま(非核化すれば)、アメリカとの交渉に裸で臨むのも同然だ」

外交的には、これは大仕事だ。片付ける問題の優先順位を決め、いつどちらが先に何をするかについて、米朝両国が同意しなければならない。また、正式な平和条約を結ぶためには、最終的に中国が関与してくることが避けられない。中国は朝鮮戦争で北朝鮮を応援するため多くの兵士を差し出し、18万人の戦死者を出しているのだ。

中国と北朝鮮は、平和条約締結と米朝国交正常化の条件として、2万8500人の在韓米軍の撤退を要求するだろう――。アメリカの懐疑派はそう主張する。それはアメリカにとってディールの終わりを意味する。

だが、金がそんな要求に固執するとは限らないと、韓国政府は考えている。

実際、韓国の特使として訪朝した鄭義溶は、金が9月5日の会合でこの問題に直接触れたという。「(正式な)終戦宣言は米韓同盟の弱体化または(在韓米)軍の撤退とは全く関係がない。そうだろう?」と金は問い掛けたという。つまり、在韓米軍の撤退が必須条件ではないことを意味する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の1─4月鉄鋼輸出は過去最高、関税見越した前倒

ワールド

台湾総統、新ローマ教皇プレボスト枢機卿に祝辞 中国

ビジネス

景気一致指数3月は前月比1.3ポイント低下、4カ月

ワールド

中国レアアース輸出、4月は前月比-15.6% 輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中