最新記事

欧州

伊ポピュリスト政権、減税など公約実現に債務拡大へ EU高官「完全に異常」と批判

2018年10月5日(金)12時29分

10月4日、欧州連合(EU)高官らは、イタリアがEUの財政規律に反する姿勢を示していることについて、こうした予算案を改定しない限り大規模な債務再編をせざるを得なくなるとみている。ローマで2018年5月撮影(2018年 ロイター/Tony Gentile)

欧州連合(EU)高官らは、イタリアがEUの財政規律に反する姿勢を示していることについて、こうした予算案を改定しない限り大規模な債務再編をせざるを得なくなるとみている。国民が最大の打撃を受けることになると警告した。

イタリアの債務残高は2兆3000億ユーロと、ギリシャの債務を大幅に超える。危機時に加盟国を支援する常設基金「欧州安定メカニズム(ESM)」が対応しきれない規模だ。

イタリアのポピュリスト連立政権を構成する反エスタブリッシュメント(既存勢力)政党「五つ星運動」と右派政党「同盟」の連立政権は先週、2019年の予算案で財政赤字目標を前政権の案の3倍に拡大し、対国内総生産(GDP)比2.4%にする方針を表明。20年、21年もその水準を維持する意向を示した。その後、イタリアのトリア経済・財務相が1日に、同案をユーロ圏財務相会合(ユーログループ)に発表した。

新政権は、債務拡大により定年退職年齢の引き下げや減税、インフラ投資、社会福祉の拡充とする公約を遂行する意向。

EU予算規制の下で、イタリアは債務を毎年減らすことや、財政の黒字化が義務付けられている。今回の予算案では露骨に違反した格好だ。イタリアの債務残高の対GDP比率は133%と、ギリシャに続き欧州で2番目に高い。

投資家らはまた、イタリア経済がほぼ停滞していることから、債務返済できるかどうかを懸念した。予算案公表後、投資家がイタリア国債を売り込む中で国債利回りは4年半ぶりの高水準を付けた。

国債利回りの上昇とEUからの批判を受けイタリア政府は、20年の財政赤字目標を対GDP比2.2%に、21年に2.0%にするかもしれないと述べた。国債利回りは低下したものの、EU高官らは決して十分と言えるものではないと主張した。

ある高官は「20年と21年に関するイタリアの提案に市場は前向きに反応したが、非常に馬鹿げている。市場は良いニュースを見つけようと必死なようだが、これを買い材料とするのは思い違いだ」と指摘した。「市場は、イタリアの逸脱ぶりがどれほどの規模でどれほど異常かを過小評価している。そしてイタリアの成長見通しは滑稽だ。特にこの政権では、成長は加速しない。減速するだろう」と付け加えた。

別の高官は「イタリア経済は大き過ぎてESMでは救済できないとの見方で大方合意している。ESMの資金の量というテクニカルな問題だけではなく、政治的な問題が最大の難点だ。北欧の国を中心に多くの国は、イタリアのためにESMを使いたくないと感じている」とした。「よって大規模な債務再編しか道はない」との見方を示し、複数の高官が同調した。

イタリア債券の3分の2は国内の機関や個人が保有しているため、イタリアが債務危機に陥った場合、国民が最大の被害を被る可能性がある。

[ブリュッセル 4日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、パウエルFRB議長提訴を警告 後任は来

ワールド

トランプ氏、イラン攻撃を警告・ハマスに武装解除要求

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中