最新記事

日本社会

大坂なおみフィーバーは日本の人種差別を変えるか

Making A Difference

2018年9月20日(木)15時30分
レジス・アルノー(仏フィガロ紙東京特派員)

全米オープンを制した大坂は日本社会を変える「大使」としても期待されているTIM CLAYTON-CORBIS/GETTY IMAGES

<「日本人」の概念を揺さぶる大坂なおみの躍進は外国人差別の解消や移民受け入れにつながる?>

テニスの全米オープンが開幕する直前の8月23日、ニューヨーク・タイムズ電子版に大坂なおみ(20)選手の長い特集記事が掲載された。副題には「彼女は日本人であることの意味をめぐる日本の期待を打ち破れるか」とある。

記事によれば、大坂の母・環はハイチ出身のアメリカ人である黒人男性との婚を父親に反対され、10年以上連絡を取れなかったという。家族は今では仲直りしているが、環は今年6月にこんなツイートをしている。「(私の結婚は)家族にとって『不名誉』だった。何十年も砂漠とジャングルにいた」

環と夫は北海道から大阪へ居を移し、さらに次女のなおみが3歳のときにアメリカに移り住んだ。日本の義理の父に拒絶されたにもかかわらず、なおみの父はなおみが13歳の時に娘が日本のテニス選手としてプレーする道を選んだ。

全米オープンで大坂が日本人初の優勝を果たして以来、日本メディアは大坂をまるで1カ月前まで日本に住んでいたかのような扱いでもてはやしている。米メディアが彼女にアイデンティティーに関する質問をするのに対し、その質問が最も重要なはずの日本で、その手の質問が歓迎されていないようなのはおかしな話だ。

日本にはなおみのようにルーツを日本以外の国にも持つ人が大勢いる。そして、外見から分かる「ハーフ」は皆、「母国」にいながら差別された記憶を持っている。

日本とフランスにルーツを持つ14歳の私の娘も最近、差別を体験した。上野公園で休憩していたとき、日本人男性から「クソガイジン」と言われたのだ。

会見でのばかげた質問

私も先日、健康診断で医療機関を訪れたところ、国民健康保険の不正利用を疑う日本人から「外人がここで何をしている?」と絡まれて口論になった。外国人が偽りの在留資格で健康保険に加入している恐れがあるとして日本政府は最近調査を行ったが、在留資格偽装が確認された例は今のところ1件もない。

大坂の躍進は、日本の移民問題について真剣な議論を進める絶好の機会だ。大坂の代理人スチュアート・ドギドはニューヨーク・タイムズにこう語っている。「今後15年間で、なおみは素晴らしいキャリアを築き、グランドスラム(4大大会)制覇さえも成し遂げるかもしれない。でも私は同時に、彼女が日本における複数の人種的背景を持つ人々への文化的認識を変えることも期待している。彼女は変化をもたらす大使になれる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中