最新記事

日本政治

それでも私は辞めません......安倍首相の異例の長期政権が意味するもの

ABE JUST WON'T QUIT

2018年9月15日(土)16時20分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

公文書の改ざんは「ごとき」という言葉で片付けられる問題ではないはずだが、いずれにしても、そもそも安倍は辞任の必要を感じていない。理由の1つは、体調だ。07年に退陣したのは潰瘍性大腸炎で体調を崩していたせいだと本人が語っているが、09年に日本で発売された治療薬のおかげで今では症状が改善している。

これまでの首相より支配権を固めていることも大きい。党内の妥協の産物でしかないこともあった過去のリーダーとは対照的に、安倍は自民党内の実力者として長らく君臨している。

経済、自由貿易、憲法改正

さらに、近年の前任者らに比べて多くの成功を収めているとの主張もできる。「政権が長期間継続しているという事実だけで、安倍は国際問題で日本の存在感を増すことに成功している」と、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームズ・ブラウン准教授(政治学)は言う。「頻繁過ぎる交代のせいで、日本の首相と関係を築いても意味がないと思われていた時代とは違う」

第2次政権発足以来、安倍が国内外で数多くの成果を出しているのは確かだ。ニュートラル状態だった日本経済はアベノミクスによって、少なくともローギアか、セカンドギアに入った。デフレの影響で97年から停滞傾向にあった名目GDPは政権発足からこれまでに約12%上昇。失業率が2.4%に低下する一方で、高齢化に伴う人口減少にもかかわらず労働力は5%増加した。労働力人口に占める女性の割合は10%増え、25歳以上の労働力率は今やアメリカを上回る。

安倍政権の下、日本は自由貿易の旗手となった。アメリカが離脱表明した後のTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉では、残る11カ国での署名に向けて主導的役割を果たした。EUとの経済連携協定(EPA)にも署名。合わせると世界のGDPの3割を占める日本とEUの協定は、1対1の自由貿易協定としては過去最大規模のものとなる。かつて貿易障壁で知られ、リンゴからスキー板まであらゆるものの輸入に抵抗していたあの日本がだ。

だが安倍が続投したがる理由はほかにある。周知のとおり、憲法改正の実現は彼の夢だ。日本国憲法は改正されていない世界で最も古い憲法と言われるが、安倍は昨年、その憲法を改正して自衛隊の存在を明記したいと述べている。だがさまざまなスキャンダルに見舞われ、この目標の実現は遠ざかっているように見える。

20年の東京五輪まで続投したいという思いも安倍にはある。ちなみに19年11月まで首相の座にいられれば、桂太郎を超えて史上最も通算在職日数の長い首相となる。

前述の谷口に言わせれば、スキャンダルが明らかになった後の昨年10月の衆院選でも安倍の続投が難なく固まったことから、有権者はスキャンダルを大して重視していない。「有権者はおしなべて、現下の局面には政治の安定が何より大切だと思っている」と彼は書いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=ダウ一時1000ドル高、史上初

ワールド

トランプ氏、人種差別的な動画投稿 オバマ夫妻をサル

ワールド

米・イラン核協議、交渉継続で合意 アラグチ外相「信

ワールド

米財務長官、強いドル政策再確認 次期FRB議長提訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中