最新記事

ミャンマー

ロヒンギャ虐殺の黒幕にこそしかるべき法の裁きを

2018年9月15日(土)14時30分
リンダ・ラクディール(ヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジア局法律顧問)

実刑判決を受けて裁判所を後にするワ・ロンとチョー・ソウ・ウー REUTERS

<ミャンマー軍の残虐行為を暴いた記者2人に実刑判決、報道の自由に危機が迫る>

9月3日はミャンマー(ビルマ)の報道の自由と法の支配にとって、暗黒の日となった。イスラム系少数民族ロヒンギャに対する虐殺疑惑を調べていたロイター通信のミャンマー人記者2人に実刑判決が下ったのだ。最大都市ヤンゴンの裁判所は、警察から極秘資料を不正に入手したとして、(英植民地時代に制定された)国家機密法違反の罪でワ・ロン(32)とチョー・ソウ・ウー(28)に禁錮7年を言い渡した。だが、2人は警察にはめられたと訴えている。

目下の焦点はウィン・ミン大統領が2人に恩赦を与えるかだが、見通しは暗い。軍のロヒンギャ弾圧を世論は強く支持しており、大統領からも、事実上の国家元首でノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー国家顧問からも、2人の記者や報道の自由を支持する発言はない。

一方、EU、イギリス、アメリカ、国連などは今回の判決を非難している。国際社会が引き続き圧力を強め、2人の釈放を求めていくことが非常に重要だ。

ある意味、2人は幸運だ。彼らが所属するロイターは大手国際報道機関であり、現地メディアには期待できないような模範的な支援を続けている。2人のケースは、国際的組織で働く現地の記者や市民が、軍や政府がひた隠しにする問題に取り組む際のリスクを浮き彫りにする。

「私たちのほうが国際ジャーナリスト以上に不安だ――実際にこの国で暮らしているから」と、ある現地ジャーナリストは言う。「私たち現地メディアのジャーナリストは、仕事も身の安全も保証されていない」

16年3月の発足以来、アウンサンスーチー率いる文民政権は言論弾圧を強化。抑圧的な法律を次々と持ち出して、反体制派のジャーナリストや人権活動家の口封じをしてきた。

自主規制のプレッシャー

現にジャーナリストのラウィ・ウェンは17年6月、反体制派の少数民族武装組織の支配地域を取材した帰りに逮捕され、2カ月間拘束された。「ミャンマーのジャーナリストには面倒を見てくれる親はいない。孤児なんだ」と彼は言う。「誰が私たちを助けてくれるのか。リスクがあっても取材を続けているが、誰も私たちを守れない」

そんな現地ジャーナリストの不安にロイター記者に対する実刑判決が拍車を掛けている。自主規制のプレッシャーが増し、報道の自由の先行きは暗い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英が貿易協定で合意=トランプ氏

ビジネス

貿易戦争の長期化、カナダ経済と金融安定性への脅威=

ワールド

米国務長官がパキスタン首相に電話、紛争緩和へ印との

ビジネス

米労働生産性、第1四半期速報値は0.8%低下 約3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 8
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 9
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中