最新記事

貿易戦争の余波は日本にも クリネックスが世界でティッシュ値上げへ

2018年8月8日(水)08時48分

7月31日、エスカレートする貿易戦争では、トイレットペーパーやティッシュまで槍玉に挙がっているが、品薄のリスクがあるのはプロクター&ギャンブル(P&G)の「チャーミン」など米国製品にとどまらない。写真は2017年、デンバーの店で売られているパンパースのおむつ(2018年 ロイター/Rick Wilking)

エスカレートする貿易戦争では、トイレットペーパーやティッシュまで槍玉に挙がっているが、品薄のリスクがあるのはプロクター&ギャンブル(P&G)の「チャーミン」など米国製品にとどまらない。

関税による価格上昇は、消費者向け製品を扱うメーカーにとって泣き面に蜂だ。ティッシュやおむつ、生理用品の主原料となるパルプのコストが上昇し、ただでさえ利益が圧迫されているためだ。

トイレットペーパーの「チャーミン」、ペーパータオルの「バウンティ」や「パフス」ティッシュを手掛ける米日用品大手P&Gは、これら3ブランドについて、平均5%の値上げを小売各社に通告したと31日に発表。同社は、おむつの「パンパース」についても、北米市場で平均4%の値上げを進めつつあると述べている。

米日用品大手キンバリー・クラークは、直近の四半期に「クリネックス」などティッシュ製品の価格を世界各国で2%引き上げる一方で、通年での予想利益を引き下げた。

ウッドチップや古紙を使って製造されるパルプは、ティッシュ製品の多くにとって唯一の原料であり、大半のおむつや生理用品でも部分的に使用されている。ユーカリ1本分のパルプからは、実に1000ロールのトイレットペーパーが製造できる。

ティッシュやトイレットペーパーの材料となる広葉樹パルプ価格は、2016年後半以来、約6割上昇していると、各国税関データに基づいて価格を追跡調査する紙パルプ製品評議会は指摘。おむつや生理用品に使われる針葉樹パルプ価格も同時期に21%上昇した。

「各社は製品価格を引上げざるを得ない。針葉樹パルプで21%、広葉樹パルプで60%も多く払うのであれば、誰かに転嫁しないことには事業存続は不可能だ」。同評議会のシニア・アナリスト、アルノー・フランコ氏はそう語る。

国際的パルプ不足の核心にあるのは、世界最大のパルプ消費国であり、しかも需要が最も急速に拡大している中国だ。

2016年には中国の景気減速により、パルプ価格は過去最低の水準にまで落ち込んだ。しかし翌年、中国経済が好転すると広葉樹、針葉樹パルプともに需要が増大。いくつかの大規模パルプ生産工場が予定外の閉鎖となったこともあって、市場は需要に応えきれなくなった。

さらに、中国は世界廃棄物の主要リサイク業者役を降りようとしており、2018年上半期における中国の古紙輸入量は、前年同期比52%減の710万トンにとどまった。中国による未分別古紙の輸入禁止措置が昨年末発動したことで、中国は包装に用いられる回収パルプを突如として大量に必要するようになったのである。

貿易摩擦が状況を一層複雑にしている。カナダは今年に入り、米国との貿易紛争の一環として、米国製ティッシュ、トイレットペーパー、ペーパータオルなど5億7500万ドル相当に関税をかけた。

中国からの輸入品2000億ドル相当に対して米国がさらに関税をかけるとの脅しを続けるならば、中国も報復関税で対抗する可能性が出てくる、と業界幹部らは懸念している。

もし中国がそのような対応を取り、同金額の米国製品に報復関税をかけるならば、約24億ドル相当に上る米国の中国向け紙パルプ製品 も対象になると、全米林産物製紙協会で国際貿易担当シニア・ディレクターを務めるジェイク・ハンデルスマン氏は予想する。

「われわれの産業にとって、中国は非常に重要な市場だ」とハンデルスマン氏。「これはとうてい歓迎できないニュースだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中