最新記事

日米関係

対米通商交渉、切り札として日本が輸入拡大するLNGは「国内需要先細り」

2018年8月29日(水)16時25分

8月29日、日本政府は、対米貿易黒字の圧縮に向け、米国からのLNG(液化天然ガス)輸入拡大を最有力手段として日米通商協議に臨もうとしている。写真は富津の火力発電所に向かうLNGタンカー。昨年11月撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)

日本政府は、対米貿易黒字の圧縮に向け、米国からのLNG(液化天然ガス)輸入拡大を最有力手段として日米通商協議に臨もうとしている。すでに2020年には米LNG輸出能力の4分の1を買い取る契約も結んだ。だが、日本の人口減少、原発再稼働などの影響で、国内におけるLNG需要は右肩下がりになるとの予測が台頭。このままでは、米国から輸入したLNGが、国内で余剰在庫として積み上がるリスクも出てきた。

こうした中で日本政府は、アジアでのLNG市場拡大に向けた支援策をまとめ、米国産LNG輸入拡大と国内需要の減少を両立させたい意向だ。

通商交渉の数少ないカード

今年5月、東京湾に入港した米国からのLNG船。東京ガス<9531.T>が初めて米国と長期契約した輸入ガスが積まれていた。米国ではシェールガス革命が起きてから数年かけて、ようやく輸出用プラントが完成し、昨年初めて天然ガス輸出国となった。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の調べでは、20年までの米国のLNG輸出能力は7115万トンに拡大する。そのうち日本は1700万トン、4分の1を購入する(転売用も含む)契約を結んでいる。

世界最大のLNG輸入企業であるJERA(東京電力<9501.T>と中部電力<9502.T>の合弁会社)によると、米西海岸のLNG輸出基地であるジョーダン・コーブから20年契約・150万トンの引き取りを現在交渉中だ。日本への距離が近いことから、他国への転売需要も念頭に米国との取引を一段と増やす可能性がありそうだ。

米国は、日本などの同盟国を含む各国からの自動車輸出に25%の高関税を適用するかどうか、関係業界からの聴取を初めとする手続きを進めている。これに対し、日本政府は、高関税阻止のカードとして、米国産LNGの輸入増加を米国に訴える方針だ。

西村康稔官房副長官は、ロイターとのインタビューで「民間企業の方針を政府がコントロールできるわけではないが、エネルギー輸入について、中東依存度を減らしていくことも大事な点。米国からのLNG輸入は、これから数年間、大幅に増えることになっている」と述べた。

日本は、電力用・都市ガス用燃料として年間8400万トンのLNGを輸入。輸入先の多くは、豪州やマレーシア、中東となっている。

日本政府は、米国からの輸入を増やすことで、中東への依存度を下げることができ、ホルムズ海峡などで紛争が発生した場合のリスク引き下げに貢献するとみている。

同時に対米黒字の圧縮にもつながるだけでなく、原油相場に左右されず安定した価格でLNGを輸入できるメリットもあるとみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政府・日銀が29日に5.26兆─5.51兆円規模の

ビジネス

29日のドル/円急落、為替介入した可能性高い=古沢

ワールド

中国共産党、7月に3中総会 改革深化と現代化が主要

ビジネス

独アディダス、第1四半期は欧州・中国が販売けん引 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中