最新記事

不敬罪

シンガポール国旗引き裂くデザインで炎上 インド人がFaceBookに投稿し警察が捜査へ

2018年8月24日(金)14時16分
大塚智彦(PanAsiaNews)

問題となったシンガポール国旗を引き裂くデザインのシャツ facebookページよりキャプチャ

<国旗や国歌に対しての接し方は国によってさまざま。シンガポールはTシャツなどにあしらうことも許されないのだが──>

シンガポール警察当局は8月20日、インターネットのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のFaceBookなどにシンガポールを侮辱する写真を掲載したとして、シンガポール在住のインド系市民から事情聴取、捜査に乗り出したことが明らかになった。

警察や地元メディアなどによると、8月14日にFB上にシンガポール国旗が左右2つに割かれ、その間からインド国旗が現れるデザインの黒いTシャツの写真がアップされた。

この写真は約11000人のFBのグループが閲覧してシェア、拡散した直後から写真を批判するコメントが殺到した。大半がシンガポール人の書き込みで「国旗が割かれたデザインは間違いなく国旗への尊敬がなく冒涜である」「シンガポールの国民の間で人種差別を煽るものだ」「外国人排斥に繋がる恐れがある」などと激しい批判で「炎上」状態となったという。

シンガポール警察は写真が「国旗、国歌などの尊厳」を定めた法律に抵触する疑いがあるとして捜査に乗り出し、当該写真を掲載したインド系市民のアピジット・ダス・パトナイク氏から事情聴取した。

シンガポールの法律では「国旗を服や衣装の一部または全部に使用することは国旗の尊厳やイメージを損なう可能性がある」として原則所轄大臣の許可がない限り認められないことになっている。

参考記事:「あのアメリカですら自国国旗の焼却が禁じられていない理由」

母国への思いを表現しただけ

警察の事情聴取に対してパトナイク氏は「インド独立記念日(8月15日)の直前だったこともあり、自分は今シンガポールに居住しているが、心は祖国インドであるということを表現したかっただけ」と述べ、人種差別や国旗冒涜などの意図は全くなかったとしている。

また地元紙「ストレート・タイムズ」に対してパトナイク氏は「Tシャツのデザインは自分で考えたものではなく、他人のアカウントからシェアしたに過ぎない」としながらも騒動を引き起こしたことについては率直に謝罪を表明し、問題の写真をすでにFBや自身のツイッターなどから削除したことを明らかにした。

パトナイク氏はシンガポールの永住許可証を所持するインド系のシンガポール国民であるが、体内を流れるインドの血が独立記念日を前に問題となったデザインについつい騒いでしまったものとみられており、警察は現時点で処罰するかどうかは明らかにしていない。


ネチズンは勤務先も槍玉に

パトナイク氏の謝罪と当該写真の削除で一件落着と思われたこの件だが、ネチズンの追及はパトナイク氏の勤務先のDBS銀行まで及ぶ事態に発展していた。DBSはシンガポールの銀行であることから「これは全てのシンガポール人への侮辱であり非常にムカつく。彼は人間としての知能に欠け、自身を優れていると思い込んでいる。DBSはシンガポール人の財産で成長し来た銀行だ、それを忘れるな」など脅迫とも思える内容の投稿もネット上にはある。

これに対しDBSは「DBSとしては事態を深刻に受け止め、深く反省している当該従業員と協議を進めているところだ」と対応している。このやり取りはネット上でも一部が公開されている。

シンガポールは高度に発展したIT社会である一方で、政府による報道、言論の自由が著しく制限された厳しい情報管理社会でもある。そうした中で国民の自由な意見発表や発信は匿名が可能なネット社会に頼らざるを得ない状況にある。このためありとあらゆる無責任、未確認の情報がネット上にあふれ、情報管理と検閲、統制にあたる当局とのイタチごっこが続いているのが実状だ。

今回の国旗問題もこうしたシンガポールのネット環境が内包する問題が背景にあるとの見方もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中