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日本が無視できない新興国経済危機

ペソ急落、アルゼンチン経済危機を示す「5つの指標」

2018年8月31日(金)15時14分

8月28日、アルゼンチン通貨の動きは金融市場の混乱が当分終わらないことを示している。写真はブエノスアイレスの金融街で2015年撮影(2018年 ロイター/Marcos Brindicci)

アルゼンチンは昨年景気が改善し、市場寄りとされるマクリ大統領率いる連立与党が昨年10月の議会選で勝利して、今年初めの時点でエコノミストは明るい見通しを描いていた。しかしペソ相場の動きはアルゼンチン金融市場の混乱が当分終わらないことを示している。

以下5つの指標からアルゼンチンの経済危機を読み解く。

●ペソ/ドル直物相場

エコノミストは以前からアルゼンチンペソは過大評価されていると主張しており、アルゼンチン政府もペソは年間を通じて徐々に下落すると見込んでいた。しかし政府のインフレ抑制達成を疑問視する見方や米連邦準備理事会(FRB)の利上げを背景に、ペソの対ドル相場は4月以降、誰も予想していなかったペースで下落した。

アルゼンチンはペソ安でドル建て債務の返済コストが膨らみ、国際通貨基金(IMF)から500億ドルの融資を受けることになった。

●前年比物価上昇率

高インフレはアルゼンチンが他の新興市場国に比べて投資家のリスク回避志向の影響を受けやすい要因の1つ。大衆迎合的な政府が何年にもわたり財政赤字穴埋めのため紙幣を増発した結果、消費者物価は急上昇した。

マクリ政権はこうした政策を見直したが、政府補助金の削減や財政赤字穴埋めの一環として電気料金を引き上げたため、物価は上昇し続けている。この数カ月はペソ急落がインフレに拍車を掛けている。

●外貨準備高

アルゼンチン中銀は急激なペソ安とインフレ高騰に対応し、政策金利を45%に引き上げ、外貨準備を放出してペソ防衛を図った。その結果、2015年12月のマクリ政権発足以来徐々に増加していた外貨準備高は急激に落ち込んだ。

外貨準備高はIMFからの融資で持ち直したが、ペソに対する売り圧力は止まらず、中銀はこの数週間でまた市場介入に動き始めた。

●経済成長率

インフレ高騰と金利の上昇はアルゼンチン経済を圧迫しているが、金融面の混乱に加えて、政権にはいかんともしがたい不運にも見舞われた。過去数十年で最悪の干ばつで大豆とトウモロコシの収穫が落ち込んだが、この2つの作物はアルゼンチン経済の大黒柱だ。

経済は農業の不振が響いて3カ月連続のマイナス成長となっており、エコノミストは景気後退入りは確実だとみている。6月の国内総生産(GDP)は前年同月比6.7%のマイナスで、2009年の世界金融危機以来の落ち込みとなった。

●就業者数

マクリ大統領は「貧困ゼロ」と雇用創出の2つの公約を掲げるが、いずれも景気悪化で実現が危ぶまれている。大統領は今月初め、インフレと景気の悪化で貧困が増えたようだと認めており、就業者数は昨年12月にピークを付けた後、減少し始めている。

政府はIMF融資の取り決めにより、財政赤字圧縮に向けた歳出削減の一環としてインフラ投資を減らす計画で、雇用情勢は一段と悪化するだろう。そうなれば2019年の再選を目指すマクリ大統領にとって厄介なことになりそうだ。

[ブエノスアイレス 28日 ロイター]


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