最新記事

アメリカ経済

好況に沸く米国経済のパラドックス 景気支えるのは低所得層の貯蓄切り崩し

2018年7月31日(火)14時05分

フィラデルフィアにあるドレクセル大学の消化器科に務める27歳の公認医療助手、マイナ・ホイットニーさんは、こうした苦渋を直接味わった。

3年前、安定したフルタイムの仕事があるから経済的な保証は十分だと確信した彼女は、ローンを組んでホンダ「オデッセイ」と11万9000ドル(約1320万円)の住宅を購入。今もこの住宅に、母親や叔母と暮らしている。

その後、時給16ドル47セント(4割の米労働者が稼ぐ時給より多い)だけでは十分でないことを悟ったという。

「返済するためだけに、毎月貯金を下ろす羽目になった」と語るホイットニーさん。1万ドルあった貯蓄は今や900ドルにまで減り、トイレットペーパーや電気代まで節約するようになった。

ケーブルテレビと、グルーポンの5ドルクーポンで時折映画を見に出かけることが、せめてもの道楽だと彼女は言う。外食をするかと質問すると、一笑に付した。「チケットを買うとか、車のどこかが故障するなんてとんでもない。そうなったら、取り戻すのがさらに大変になる」

貯金を食いつぶす

中間所得層の財務圧迫は、それさえなければ明るい米国経済の展望に影を落としている、とソシエテ・ジェネラルのエコノミスト、スティーブン・ギャラガー氏は指摘する。

「彼らは返済できない債務に頼っている。貯蓄減少と債務不履行の増大は、(全体の)消費を支えきれていないことを意味する」とギャラガー氏は語る。石油や貿易でショックが起きれば、「かなり劇的な消費後退が生じかねない」

今年1月成立した1.5兆ドル規模の減税措置がなければ、過去数年間にわたり年3%前後で拡大してきた消費支出は、すでに頭打ちになっていた可能性があると、一部のエコノミストは警戒する。

オックスフォード・エコノミクスによれば、これまで消費支出成長の大半を牽引してきたのは、有所得者の上位40%における所得増大だった。だが2016年以降、消費支出は主として、有所得者の下位60%を中心とする貯蓄の取り崩しを追い風にしているという。

これは一つには、景気循環の後半になると、低所得層の借り手にとっても融資を利用しやすくなる状況を反映している。

とはいえ、消費の伸びに対して2年連続で低所得層による貢献の方が大きくなるのは、過去20年間で初めての現象だ。

「一般的に、人々が支出を切り詰め、ある種のライフスタイルを放棄することは非常に困難だ。特に経済が実際に上向きのときには、なおさらだ」とオックスフォード・エコノミクスの米国担当チーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は語る。

「実際こうした弱い『体幹』のせいで、経済の『腰』に少し負担がかかりやすくなり、いずれ痛めてしまう可能性がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アオイ電子、シャープ三重事業所第2工場と土地を取得

ビジネス

消費者態度指数7月は3カ月ぶりマイナス、食品値上げ

ビジネス

サムスン電子、半導体事業94%営業減益 下期は徐々

ビジネス

エーザイとバイオジェンのアルツハイマー病薬、4年後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中