最新記事

BOOKS

「コンビニ外国人」が多い日本、政府の「移民」の定義はズレている

2018年7月18日(水)17時48分
印南敦史(作家、書評家)

2016年にヨーロッパで立て続けに起こったテロ事件などの影響で、「移民=犯罪者」と言うような悪いイメージを持つ人が増え、「移民が増えれば犯罪率が上がって、雇用の機会も奪われる」というように正しい理解がなされていないことも原因だというのだ。

だから毛受氏は「政府として"移民政策"を展開していくにはまだハードルが高いのであれば、『移民』という言葉を使うのはやめて、たとえば"定住外国人"だったり、"アジア青年日本活躍事業"とするのもよいのでは」と提言している。「移民」という言葉にアレルギーがあるのであれば、そのほうが話は早いということだ。

しかし、いずれにしても、まだその程度の 段階なのである。しかも、ここで紹介しているのは、本書が投げかけている諸問題のほんの一部に過ぎない。


 外国人の流入は、しばらくの間は続くはずだ。「はじめに」でベトナム人留学生のアイン君が指摘していたように、少なくとも東京オリンピックの翌年くらいまでは続くと考えて間違いないだろう。(中略)
 だが、その流れもきっとそう長くは続かない。
 オリンピックの後、多くの専門家が指摘しているように、おそらく日本の景気は悪化する。そうなれば、日本に来る外国人留学生の数は減り、これまで頼りにしていた外国人労働力もどんどん減っていき、日本の経済が音を立てて崩れていくような事態になるかもしれない。(198ページより)

その解決の糸口のひとつとして、本書では「多文化共生」の重要性が紹介されている。

もちろん、異なる文化を持つ人たちとの交流の機会が増えれば、そこから何かの解決策を見つけ出すことは可能なのかもしれない。

だが、それを実現させるためには相応の時間もかかる。だからこそ我々は問題解決を行政に丸投げするのではなく、まず「いまの自分」に何ができるのか、何をすべきなのかを考えはじめるべきではないだろうか。すぐに答えの出る問題ではないとはいえ、時間がないことも事実なのだから。


『コンビニ外国人』
 芹澤健介 著
 新潮新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア下院、ミシュスチン首相の再任承認 プーチン氏

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 7

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中