最新記事

アメリカ経済

トランプの仕掛けた貿易戦争、米国内に生まれる「勝ち組と負け組」

2018年7月15日(日)12時27分

昨年6月、マグニチュード7メタルズのボブ・プルサク最高経営責任者(CEO)が、米商務省によるアルミニウム輸入に関する調査の一環で行われた公聴会で証言した。プルサク氏は、関税は「われわれの事業が円滑に進むために、最重要なもの」だと証言した。

トランプ氏が関税をちらつかせ、最終的に追加関税を課すまでの間に、さらに多くの投資家が参入した。工場では採用を加速し、最初の生産ラインを6月14日に稼動させた。

「今では、希望がある」と、前出のボディ市長は話す。

<戦々恐々の農業地帯>

一方、ニューマドリード郡の農場では、希望は薄れつつある。

米農務省(USDA)のデータによると、この地域は昨年、ミズーリ州でも最大級の大豆とトウモロコシの生産量を上げた。

米農業大手デュポン種子部門のデュポンパイオニアは、ここに巨大な大豆種子生産工場を置いている。また川沿いには、大手穀物商社アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドや、農業共同組合ライスランド・フーズ、サプライヤーのクロップ・プロダクション・サービシズやアグリウムが運営する、貯蔵庫やシップローダーが並んでいる。

地域の穀物生産者は、収穫した作物のほとんどを海外市場向けにこうした川沿いのターミナルに売っている。地元では需要がほとんどないためだ。

貿易会社は、作物を船に積んでミシシッピ川を下り、海外へと出荷するためメキシコ湾沿いの港まで運搬していく。

中国が6日に発動した報復関税は、米国最大の農業輸出品である大豆を含め多くの米国製品を対象にしている。また、北米自由貿易協定(NAFTA)を巡ってカナダやメキシコとの再交渉が進んでおり、両国との緊張も米国の農業者を直撃する可能性がある。

世界的な穀物の過剰生産で価格が低下した影響で、農業者はこの数年手取りが減少しており、貿易摩擦が起きる前から痛手を被っていた。

USDAのデータによると、昨年は米国産大豆の約半分が輸出された。全体の4分の1超にあたる123億ドル相当が、中国への輸出だった。ミズーリ州からは、20億ドル相当の農産品が輸出されている。

前出の農業者ローンさんは最近、数人の従業員から話しがあると告げられた。精錬所が閉鎖した後に雇ってくれたことには非常に感謝しているが、工場が再開するため、以前の仕事に戻りたいというのだ。

「彼らのために喜んでいる。皆、喜んでいる」と、ローンさんは言う。

「でも、われわれ農家にとっては、まだ喜んでいい状況なのか分からない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中