最新記事

北朝鮮

シンガポールの米朝蜜月は終わった──ポンペオ、手ぶらで帰る

2018年7月10日(火)16時45分
ダニエル・ラッセル

ポンペオにとって国務長官就任後初めての平壌訪問は、北朝鮮に拘束されていた3人のアメリカ人の解放に重点を置いたものだった。そして今回の訪問では、トランプが誤って「既に果たされた」と述べた2つの約束――朝鮮戦争で死亡した米兵200人の遺骨返還と数多くあるミサイル発射実験場のうち1カ所の解体――の実行を北朝鮮に迫ったが、即時実行との言質を取ることはできなかった。

シンガポールでの米朝首脳会談から3週間を経ても、北朝鮮はこれら2つの約束を実行に移しておらず、ポンペオが今回の訪問で成し得たのは「手順」に関する実務レベルでの話し合いのみだった。これらの事実は、平壌がいまだ合意すらしていない、核物質の放棄や核製造施設の解体などの真に重要な問題については迅速な進展など望めそうにないことを示唆している。

ポンペオにとって最大の問題は、対北制裁の圧力が弱まっていることだ。トランプ政権は北朝鮮に対する厳しい制裁を維持するとしているが、ポンペオ自身、中国が対北制裁を緩和していることを認めている。北朝鮮を交渉のテーブルに着かせた「最大限の圧力」は今や、中国の協力がなくなったことで「最小限の圧力」と化している。

「千里の道」は地雷原

理論上は今も対北制裁が維持されており、これが今も金にとって頭痛の種であることは確かだ。とはいえ制裁は中国の積極的な協力があって初めて効力を発揮するもので、今やそれがなくなった。5月以降、対北観光の規制が解除されたとみられ、北朝鮮を訪れる中国人観光客が増えている。北朝鮮から中国に入る出稼ぎ労働者も再び増加。中朝国境の不動産価格も上昇している。北朝鮮は中国への石炭輸出を再開し、中国は瀬取りで石油の輸出を行っている。さらに中国政府は制裁の解除を提案している。

最も重要なのは、3カ月という短期間で3回訪中した金を習近平国家主席が大々的に温かく歓迎したことが、中国の実業家や闇商人たちに明白な「ゴーサイン」を出したことだ。これで、取引を行う上でのポンペオの交渉力は損なわれた。

最初は戦争に、その後は唐突に北との対話へとジグザグに歩を進めてパートナー諸国の不意を突くことで、トランプはアメリカへの信頼を揺るがし、ルールのない自由参加の競争をスタートさせた。

金はこの状況を利用して韓国、中国およびロシア政府と別個に取引を行っており、これらの国々が現在アメリカに対して、要求の軟化とさらなる譲歩を強く求めている。外交プロセスで置き去りにされ、トランプの米軍撤退発言に衝撃を受けた日本は、アメリカの核の傘なしにどうやって北朝鮮の核搭載ミサイルから身を守るかを考え始めている。マティスとポンペオは、最近の日本と韓国との会談をはじめ、同盟諸国やパートナーを安心させるための数々の試みを行っているが、トランプの行動に照らすとどれも空しく聞こえる。

北朝鮮がポンペオの訪問を批判したことを受けて韓国大統領の報道官が述べたように、千里の道も一歩から始まるのは確かだ。だが北朝鮮の核の脅威は地雷原であり、トランプ政権がさらなる「踏み間違い」を回避することができなければ、その旅が成功することはないだろう。

(翻訳:森美歩)

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イエメン・フーシ派、イラン情勢巡り軍事介入の用意 

ビジネス

NY外為市場=ドル160円台、中東緊迫で「有事の買

ビジネス

米国株式市場=大幅続落、ダウ調整入り 中東情勢巡る

ワールド

イラン、米停戦案への回答保留 攻撃下の対話要求「容
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 9
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 10
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中