最新記事

サプリメント

認知症の改善効果をうたう健康サプリにご用心

2018年7月3日(火)15時20分
リック・シュミット (非営利調査報道サイト「フェアウォーニング」記者)

94年にDSHEAが成立した際、サプリメントの成分は天然由来なので食品に近く、医薬品よりも規制は緩くていいというのが賛成派の主な論点だった。薬の代用品として安く提供すれば公共の利益になるとの主張もあった。

その後、サプリ業界は規制の網をかいくぐって商売を拡大したが、FDAの監視は不十分だった。例えば、新しい成分を使用する場合にはメーカーがFDAに届け出る義務がある。しかしFDAによれば、適正な情報開示の行われていない成分が大量に出回っている恐れがある。

欧州などで広く脳卒中の治療に使われているビンポセチンに関しても、FDAによる監視には疑問符が付く。

ビンポセチンがアメリカで、アルツハイマー病や認知症の治療薬として注目されたのは80年代のことだ。しかし治験では有効性が確認されず、医薬品として認可されることはなかった。

しかし90年代後半、ビンポセチンはDSHEAの下で復活した。血流の改善効果が期待されることから、業界はこれを「脳のバイアグラ」と持ち上げた。現在、ビンポセチンは単体で、あるいはプロセラやニューロ・ナチュラル・リコールといったサプリの成分として広く用いられており、業界関係者によれば、年間で2000万~4000万ドルの売り上げがある。

TRIFONENKO/ISTOCKPHOTO

業界の反撃と消費者の困惑

しかしビンポセチンには根本的な問題がある。キョウチクトウ科の植物ヒメツルニチニチソウの抽出物として販売されてきたが、実はこの植物に含まれるアルカロイドに人の手を加えた合成品だ。つまり天然由来の成分ではないから、サプリには使えない。FDAは届け出を受けた時点でこの事実に気付くべきだったが、何もしなかった。

15年10月、ハーバード大学医学大学院とミシシッピ大学の研究チームが学術誌ドラッグ・テスティング・アンド・アナリシスに論文を寄せ、健康食品チェーンのGNCなどで販売されたビンポセチン含有商品23種類を調査したところ、成分表に多くの誤りが見られたと報告した。ビンポセチンを天然成分とする表示もあった。

「そもそもビンポセチンをサプリメントに入れて販売すること自体が許されない」と言うのは、非営利団体「公益科学センター」のデービッド・シャルド上級栄養士だ。「この論文でFDAのいい加減さも明らかになった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中