最新記事

貿易戦争

中国、トランプ政権の通商政策対抗でEUに連携働き掛け

2018年7月4日(水)08時30分

 7月3日、中国が今月の中国・欧州連合(EU)首脳会議でトランプ米大統領の通商政策に対する力強い共同声明を採択するよう欧州側に圧力を掛けていることが欧州当局者の話で明らかになった。上海で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Aly Song)

中国が今月の中国・欧州連合(EU)首脳会議でトランプ米大統領の通商政策に対する力強い共同声明を採択するよう欧州側に圧力を掛けていることが欧州当局者の話で明らかになった。

中国とEUは今月16─17日に北京で首脳会議を開催する。これに先立ちブリュッセル、ベルリン、北京などで実施された協議で、王毅外相を含む中国高官がEUとの連携を提案。一段の市場開放に努める方針を示すと同時に、双方が世界貿易機関(WTO)を通して米国に対し協調行動を起こす案も提案した。

ただ、複数のEU当局者、および外交官はロイターに対し、EU側は米国に対抗するために中国と連携する案を退けたことを明らかにした。

中国の国営メディアは、EUが中国側に付いているとのメッセージを盛んに伝えているが、2016年と17年の過去2回の中国・EU首脳会議では領海問題や通商問題などを巡る見解の相違が埋められず、声明は採択されていない。欧州の外交官は「中国はEUが中国と連携して米国に対抗することを望んでいるが、EUにその意向はなく、中国側にその旨を伝えている」と語った。

ロイターは中国外務省に対しEUとの首脳会議の目的に関してコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。

トランプ米政権はEUにも鉄鋼とアルミニウムの輸入関税を適用し、自動車に対する関税措置も検討している。ただそれにもかかわらず、EUは中国の閉鎖的な市場などを巡る懸念を米国と共有。外交筋は「米国が中国に持っている不満のほぼ全てについてEUは同意している。EUが同意できないのは、米政権の対処法にほかならない」と述べた。

中国が示しているスタンスは、同国が米中貿易戦争を深く懸念していること、さらに自由貿易、気候変動、外交政策などを巡り米国と欧州、カナダ、日本などの同盟国との間で亀裂が拡大する中、主導権を取ろうとする新たな大胆さを示しており、欧米間の経済・安全保障上の深い関係を踏まえると驚くべきものがある。

中国との折衝に当たっている欧州当局者は「トランプ氏は西側を分裂に追い込んだが、中国はこうした状況から利益を得ようとしている。中国は西側が一枚岩となっていることに満足したことは一度もなかった」と指摘。「中国は現在、通商や人権など多くの面でEUの分断化に向け揺さぶりを掛けられると考えている」と述べた。

当局者は、前月にカナダで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)について、少なくとも通商問題で欧米が対立したことで中国への「贈り物」になったと指摘。欧州の外交官は、トランプ大統領の「米国第一主義」に対抗するため、志を同じくする国を求める中国の切迫感を昨年から感じていたと述べる。

中国が今回のEUとの首脳会議に先立ち示している提案について、別のEU外交官は「開放に向けた提案がどこまで本物なのかは判断できず、システミックな変化につながるものではない可能性がある」と指摘。EU当局者は、今回のEU・中国首脳会議の声明について、多国間貿易システムに対するコミットメントをうたい、WTOの改革に向けた作業部会の設置を確約するにとどまるとの見方を示している。



[ブリュッセル/ベルリン 3日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB議長、QT停止の可能性示唆 「数カ月以内」に

ビジネス

トランプ氏、中国との食用油取引打ち切り検討

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米中通商懸念が再燃

ビジネス

米ボストン連銀総裁、追加利下げ支持を再表明 雇用リ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中