最新記事

中国よりも おそロシア

W杯ロシア代表、予想外の躍進もプーチンは興味なし?

2018年6月26日(火)17時50分
藤田岳人(本誌記者)

ロシアW杯の第2戦、ロシア代表はエジプトを3-1で下したが、プーチンはこの試合を見ていない Fabrizio Bensch-REUTERS


180703cover-150.jpg<ロシアのプーチン大統領はおそらくサッカーに興味がない。そのプーチンがサッカー以上にひきつけられ、また半数以上がサッカーに無関心というロシア国民の愛国心を燃え上がらせるものは、別にある。戦争だ。本誌7/3号(6/26発売)特集「中国よりも おそロシア」では、中国より危険なロシアの恐ろしさを検証。他国への軍事介入や諜報活動、サイバー攻撃、暗殺......ロシアが狙う新たなターゲットは何か>

ワールドカップ(W杯)のグループリーグで最大の大番狂わせを演じているのは、日本ではなく開催国のロシアだろう。ロシアのFIFAランキングは出場国中で最下位の70位。昨年11月から本番開幕まで、7戦連続で勝ち星を挙げることができずにいた。

それが開幕戦でサウジアラビア(ランキング67位)を相手に5-0というまさかの大勝をおさめると、続く第2戦でもエジプト(ランキング45位)に3-1の勝利。第3戦のウルグアイ(ランキング14位)戦は0-3で落としたが、見事に決勝トーナメント進出を決めた。

これにはウラジーミル・プーチン大統領もお喜びのはずだ。とはいえそれは、彼がサッカーファンだからではない。

政治・軍事の舞台で世界の強豪国を相手に激しい戦いを繰り広げ、欧米メディアで「世界で最も危険な指導者」と称されることも多い彼にとっては、代表チームのパフォーマンスもまだまだ満足いくものではないだろう。

それ以上に、プーチンはおそらくサッカーそのものに興味がない。報道官によれば、エジプトに勝利した第2戦も、外遊先のベラルーシから帰国する機内にいた彼は観戦していない。

プーチンが喜んでいるとすれば、それは代表チームの活躍が彼自身の利益になるからだ。開幕戦勝利のグッドニュースが国内に流れたその日、ロシア政府は増税と年金支給年齢の引き上げという、国民受けの悪いバッドニュースを発表した。プーチンにしてみれば、代表チームのおかげで、バッドニュースの注目度が下がることになったのだ。

さらに、W杯史上最高水準の推定190億ドルをつぎ込んで開催準備を進めた背景には、大会の成功を国際社会におけるロシアのイメージ改善につなげたいとの思いもあるとされる。「軍事的に強いだけでなく、国際的な水準のイベントを開催する力があると世界に見せつけたい」のだと、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフは分析する。

とはいえ、スポーツイベントの開催に成功したからといって、国外におけるロシアの悪評やロシアへの恐怖心が簡単に消えるわけではない。

東部地域の独立派にロシアが加勢していると訴える内戦中のウクライナや、平和な地方都市で起きた元スパイの暗殺未遂事件をロシア政府の指示によるものと疑うイギリスなどで、ロシアの評判を覆すのは難しいとプーチンも重々承知しているはずだ。

さらに、サッカーが人気の国でありがちな、代表チームの活躍がナショナリズムを掻き立てて政権の支持率上昇に貢献するという効果も、ロシアでは見込めない。ロシアでもサッカーは比較的人気のスポーツではあるが、W杯前に行われたある調査ではサッカーに興味がないと答えた人が半数以上。長年のファンだと答えたのは16%だった。

そのうえソ連時代から、サッカーは権力者たちに好まれることがなかった。ロシアのスポーツ史を研究するカリフォルニア大学サンディエゴ校のロバート・エデルマンは、ヨシフ・スターリンもサッカーには「なんら興味を持っていなかった」と、オンライン誌クォーツで語っている。ロシアはスポーツ選手の好成績を国策としてプロパガンダに利用してきたが、そこでもサッカーは蚊帳の外だったというわけだ。

【参考記事】ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中