最新記事

北朝鮮

「拉致被害者は生きている!」──北で「拉致講義」を受けた李英和教授が証言

2018年6月11日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

以下に、李英和教授が教えて下さった「拉致講義」の概要を、ほぼ原文通りに記す(したがって文中にある「私」は李英和氏本人を指す)。

1.講義の場所は宿舎の部屋の中ではなく、公園で歩きながら。秘密警察の盗聴を嫌ってのこと。拉致は、秘密警察ではなく、工作機関の犯行と管轄なので。

2.工作機関による計画的な日本人拉致作戦は、1976~1987年の間に金正日(キム・ジョンイル)の指示で実施。「それ以前とそれ以降はやっていない」と断言。(当時、後継者候補の金正日が拉致作戦を立案・指揮していた。)

3.背景は経済計画の失敗(71年~「人民経済発展6カ年計画」)。汚名挽回のため、金正日が新機軸の対南(南朝鮮=韓国)テロ作戦を発動。経済破綻で全面戦争ができなくなったので、戦争の代わりにテロを立案。

4.同作戦により急遽、対南潜入工作員の大量養成が必要になり、その訓練の一環で日本人拉致を実施。新米(しんまい)工作員の敵国への潜入訓練の場として、海岸警備の手薄な日本海側を利用。教官は「潜入訓練完遂の証拠品として"日本人"の拉致を要求したので、拉致対象の年齢・性別・職業等は問わなかった」と説明した。そのせいで、近くの浜辺で手当たり次第に拉致。当時まだ女子中学生だった横田めぐみさんが連れ去られることになった。

5.沖合の母船から5人乗りゴムボートで海岸に3人の新米工作員が潜入。空席は2名なので、拉致は最大2名までが限界。アベックの「失踪」が多いのはそのせい。

6.金日成の名前で「拉致した日本人は絶対に殺さず、生かして平壌に連れ帰れ。拉致被害者は平壌近郊で『中の上』の暮らしをさせるから、安心して拉致して連れ帰れ」という厳命が下された。そのこころは、無関係な日本人の民間人を殺害することになれば、新米工作員に戸惑いの心理的動揺をきたし、訓練の失敗につながるおそれがあるから。したがって、拉致被害者は誰も現場で殺害されたり、日本海でサメの餌にされたりすることなく、平壌の工作機関の拠点まで生きて連れ去られた。

7.北到着後も「絶対に死なせるな」という金日成の厳命は生きた。工作機関は管理・監督責任を厳しく負わされるので、事故や病気での死亡を厳格に防いだ。「本人が死にたいと思っても、自殺もできない」という監視下で暮らした。

8.拉致被害者は工作機関の管轄区域内で5~6人一組で隔離生活させる都合上、被害者に与えられる仕事は「共通の特技」である日本語の教育係ぐらいしかなかった。したがって、何らかの特技を狙ったり、日本語教師をさせたりする目的で拉致したのではけっしてない。あくまでも訓練の証拠品。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続

ワールド

トランプ氏、有権者ID提示義務化へ 議会の承認なく

ワールド

米政権、鉄鋼・アルミ関税引き下げ報道を否定 「決定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 4
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中