最新記事

日本外交

北朝鮮との間で拉致問題を抱える日本のジレンマ

2018年6月5日(火)17時00分
辰巳由紀(米スティムソン・センター日本研究部長、キャノングローバル戦略研究所主任研究員)

拉致被害者の家族と面会したトランプ米大統領夫妻(17年、東京) Kimimasa Mayama-Pool-REUTERS

<取り残されかけた安倍外交は「最大限の圧力」からの転換を迫られる>

来る米朝首脳会談で最大の焦点は、北朝鮮の核をめぐり、ドナルド・トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が何らかの合意に達するかどうかだ。合意に達した場合、どのような内容になるだろうか。

4月27日に行われた南北首脳会談で金と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、朝鮮半島の非核化を目指すことで合意した。金は5月3日に中国の王毅(ワン・イー)外相と会談した際も、非核化に向けて努力すると繰り返している。

ただし、金の意図する「朝鮮半島の非核化」がどのようなものかは、不確かなままだ。アメリカでは多くの人が、北朝鮮は核兵器を手放すことと引き換えに、アメリカの「核の傘」を朝鮮半島から(そして北東アジアから)外すことを求めるとみている。

北朝鮮の核をめぐる米朝の合意は、日本にも大きな影響をもたらしかねない。例えば、アメリカにとって緊急の課題、すなわち北朝鮮が保有する核兵器の数とICBM(大陸間弾道ミサイル)の性能向上に関する内容にとどまり、生物化学兵器や短・中距離弾道ミサイルに言及しなければ、日本の安全保障は改善されないだろう。

北朝鮮が非核化と引き換えに韓国の駐留米軍の大幅削減を要求して、アメリカが応じれば、北東アジアにおける米軍のプレゼンスに甚大な影響をもたらし得る。その場合、日本とアメリカの間で、米軍と自衛隊の役割、使命、責任の分担について大々的な見直しに発展するかもしれない。

安倍に求められる「決断」

さらに、北朝鮮が核弾頭の廃棄など非核化への具体的な取り組みを始めることと引き換えに、経済的な見返りを提供していくという合意が結ばれた場合、日本は厄介な立場に置かれる可能性がある。

日本はこれまで、北朝鮮による日本人の拉致問題が進展しない限り、金政権との対話は始めないという立場を貫いている。従って、アメリカと韓国、中国、そしておそらくロシアが、経済制裁の一部緩和や経済支援など、より広範囲な関与へと前進する一方で、日本だけが北朝鮮への経済協力を拒むという図式になりかねない。

既に日本は、朝鮮戦争の休戦協定の当事者ではないという意味で、朝鮮半島の長期的な将来の議論の中心から外れている。さらに経済制裁をめぐる立場で他国と差が生じれば、朝鮮半島情勢が進展する一方で、日本は今以上に傍観者になりかねない。

3月に米朝首脳会談の開催が発表されて以来、関係国の間では、北朝鮮の核問題を解決するための外交努力が加速している。その中で「拉致問題が解決に向かうまで対話は始めない」というアプローチを固持する日本は、後れを取っているようだ。

安倍晋三首相も外交活動を強化している。4月中旬に訪米してトランプと会談した後、5月9日には東京で日中韓首脳会談のホストを務め、文と中国の李克強(リー・コーチアン)首相ともそれぞれ個別に会談した。

MAGAZINE

特集:香港の出口

2019-8・27号(8/20発売)

拡大する香港デモは第2の天安門事件に? 中国「軍事介入」の可能性とリスク

人気ランキング

  • 1

    日本の重要性を見失った韓国

  • 2

    日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済にもマイナス 日韓関係の回復を強く望む

  • 3

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安倍政権批判集会以上が参加か

  • 4

    韓国人はなぜデモがそんなに好きなのか

  • 5

    乳がん細胞を脂肪細胞に変えることに成功:バーゼル…

  • 6

    「香港鎮圧」を警告する中国を困惑させる男

  • 7

    日本政府、韓国サムスン向け半導体材料の輸出を再び…

  • 8

    香港デモで資産価値の5分の1が吹き飛び、キャセイ航…

  • 9

    韓国航空業界に再編の荒波 アシアナは投資ファンド…

  • 10

    韓国金融当局、独10年債利回り連動デリバティブを調査…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 3

    日本の重要性を見失った韓国

  • 4

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道…

  • 5

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 6

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......そ…

  • 7

    世界が知る「香港」は終わった

  • 8

    未成年性的虐待の被告の大富豪が拘置所で怪死、米メ…

  • 9

    日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済…

  • 10

    韓国人はなぜデモがそんなに好きなのか

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    日本の重要性を見失った韓国

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 5

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 6

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

  • 7

    「韓国の反論は誤解だらけ」

  • 8

    デーブ・スペクター「吉本」「日本の芸能事務所」「…

  • 9

    「韓国に致命的な結果もたらす」日韓の安保対立でア…

  • 10

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月