最新記事

イラン核合意

米イラン制裁で世界最大級のガス田が中国の手に?

2018年5月31日(木)17時40分
トム・オコナー

5月13日、北京でイランのジャバド・ザリフ外相が中国の王毅(ワン・イー)外相と会談 Thomas Peter-REUTERS

<トランプ政権の対イラン制裁再発動は、中国にとってはエネルギー資源確保の好機になる>

フランスの天然ガス石油大手トタルが、アメリカの制裁を恐れてイラン南部沖合のガス田サウスパルスの開発プロジェクトから撤退するなら、トタルの事業権益は中国に譲渡する──イラン当局が脅しともとれる声明を発表した。

トタルは米政府の対イラン制裁再発動を睨んで、イランにおける開発プロジェクトからの撤退を検討している。

2015年にイランと欧米など6カ国が交わした核合意で、イランに対する経済制裁が解除されたことを受けて、トタルは世界最大級のガス田で事業規模48億ドルのサウスパルス第11鉱区の開発プロジェクトへの投資を決め、中国最大の国有石油ガス会社・中国石油天然気集団(CNPC)と共に2017年7月、イランの国営石油会社と契約を交わした。

ところがドナルド・トランプ米大統領が5月8日、核合意からの離脱を表明。制裁の再開を命じる大統領令にも署名した。これにより、一定の猶予期間後はイランと取引する外国企業にも米政府の「二次制裁」が科されることになった。

英紙フィナンシャル・タイムズが伝えた声明で、イランのビージャン・ザンギャネ石油相は、トタルが撤退するなら、既に30%の権益を持つCNPCがトタルの権益50.1%を取得することになると述べた。

「トタルはイランにとどまるため60日間アメリカ政府と交渉できる。フランス政府も同期間交渉できる。アメリカ政府がトタルの残留を認めなければ、中国がトタルに取って代わることになる」

中国企業は二次制裁が怖くない

ロイターが入手した声明でトタルの広報担当者は、「5月16日に発表したように、イラン当局と交わした契約に従い、トタルはプロジェクトの権利放棄が可能かどうか、フランス及びアメリカ当局と協議している」と述べている。

「第11鉱区の契約では、制裁が発動された場合に備えて、しかるべき手続きと時期が定めてあり、わが社はその手続きを進めている」

トタルは金融取引の90%を米銀が占めるため、二次制裁が科されれば、大きな痛手を被る。

一方、CNPCをはじめ中国の企業は、ヨーロッパの企業と比べ「アメリカとのつながり、特にウォール街とのつながりが少ないため、米政府の制裁によるリスクは低いとみているだろう」と、制裁絡みの訴訟専門の弁護士ティモシー・オトゥールはフィナンシャル・タイムズに語っている。

中国外務省は28日、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が6月9、10日に山東省青島で開かれる上海協力機構の首脳会議にオブザーバーとして参加するよう、イランのハッサン・ロウハニ大統領を招いたと発表した。アメリカ抜きの核合意を維持するため、両国はここ数週間活発に外交交渉を行っている。

エネルギー資源の確保を至上命題とする中国は、天然ガスの埋蔵量で世界第2位のイランに多額の投資を行う一方で、第1位の埋蔵量を誇るロシアとも経済関係を深め、特にエネルギー開発で強固な関係を築いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中