最新記事

貿易

アメリカ抜きTPP11が米政権に突き付ける「復帰の条件」

2018年4月6日(金)17時00分
キース・ジョンソン

TPP11の署名式に集まった11カ国の首脳や閣僚(3月8日、サンティアゴ) Ivan Alvarado-REUTERS

<トランプ政権は復帰の可能性をちらつかせているが、他の11カ国は長く厳しい交渉にはもうこりごり>

TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を決めて1年以上。トランプ政権は、自国の望む条件でのTPP復帰を示唆し続けている。

ムニューシン財務長官も先頃、他の貿易交渉が全て決着することと、TPPの条項がもっとアメリカの利益に沿った内容に書き換えられることを条件に、TPP復帰の可能性を排除しない意向を示した。

しかし、アジア・太平洋諸国の雰囲気は変わり始めている。1年前はアメリカの参加を熱望していた国々が、今はアメリカ抜きでの貿易体制の確立に力を注いでいる。

アメリカを除く11カ国のTPP協議参加国は、アメリカが強引に押し込んだ22項目(著作権の保護期間延長など)の効力を凍結した「スリム版」のTPPで合意し、3月8日にチリの首都サンティアゴで署名式も済ませた。このいわゆる「TPP11」は、各国の国内での批准手続きを経て、早ければ年内にも発効する可能性がある。

参加国の多くは、アメリカを呼び入れるために長く厳しい交渉をやり直すことに前向きでない。チリのバチェレ前大統領(3月11日まで在任)は、アメリカが復帰を望むなら現在の協定を丸のみすべきだと述べていた。アメリカの復帰を望む日本政府ですら、協定を全て交渉し直そうと考えるべきではないと米政府にクギを刺している。

参加国は続々と増える?

多くの参加国は、元のTPP協定案に国内世論の同意を取り付けるために散々苦労した。国民に不人気な条項が(アメリカの要求により)盛り込まれていたからだ。ところが、トランプ政権の発足早々にアメリカが協定から出て行き、残された11カ国は再び1年間にわたり厳しい交渉を重ね、ようやく新しい協定をまとめたのだ。

「11カ国は、現在の協定案を変更するつもりはない」と、米通商代表部(USTR)在籍時にTPP交渉でも活躍したウェンディ・カトラーは言う。「もうこりごりだと思っている」

アメリカ抜きのTPP11は、元の12カ国のTPPに比べれば規模はだいぶ小さい。参加国が世界貿易に占めるシェアは、13~18%程度にとどまる(アメリカが加わっていれば40%に達する見通しだった)。

しかし、アメリカの強硬な主張により協定案に盛り込まれた22の条項が凍結されたことで、多くの国にとって受け入れやすい協定になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新たな米ロ首脳会談、「準備整えば早期開催」を期待=

ビジネス

米政権のコーヒー関税免除、国内輸入業者に恩恵もブラ

ワールド

クックFRB理事の弁護団、住宅ローン詐欺疑惑に反論

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、5万円割れ 米株安の流れ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中