最新記事

シリア情勢

いったい何のため?シリアの子供たちを化学兵器で攻撃

2018年4月9日(月)18時30分
トム・ポーター

東グータ地区ドウマで化学兵器攻撃の被害に遭ったとされる幼児 White Helmets/Reuters TV-REUTERS

<ヘリコプターから毒ガスを仕込んだ樽爆弾を投下する。それも、防空壕や家の入り口近くに。誰がなぜ、隠れていた子供たちまで狙ったのか>

シリアの東グータ地区ドウマで化学兵器を使った攻撃が行われ、多数の死者が出ていると人道団体が4月7日夜、明らかにした。

シリア系米国人医療協会(SAMS)とボランティア人命救助部隊のホワイト・ヘルメット(シリア市民防衛団)の共同声明によれば、死者の数は49人。被害の規模については、発表する組織によってばらつきがある。

反政府勢力寄りのグータ医療センター(GMC)によれば死者は75人、負傷者は1000人を超えるという。一方で死者数は数百人に達するとの報告もある。

反政府勢力が公開した動画には、子供を含む十数人の遺体(中には口から泡を吹いている人も)が映っている。「ドウマ市、4月7日......あたりには強い臭いが漂っている」という声が入っている。

ホワイト・ヘルメットはツイッターで死者数はまだ増えるとの見方を示すとともに、地下室に横たわる遺体の写真を投稿。リーダーのラエド・サレハはカタールの衛星テレビ局アルジャジーラに対し、「70人が窒息死し、数百人が呼吸困難に陥っている」と述べた。

現地では激しい爆撃が7日夜から8日朝にかけて続いた。米オンライン誌スレートの取材に応えた救助メンバーによれば、多くの犠牲者は防空壕や家で死んでいた。人々が安全を求めて避難した場所を狙ってガス爆弾を落としたのだろう、と言う。

猛毒ガスのサリンが使われたとの情報も

GMCによれば、使われたのは神経ガスのサリンで、樽爆弾に入れられてヘリコプターから投下されたという。

シリア政府は、政府軍はいかなる化学兵器攻撃も行っていないとこれらの情報を否定。東グータ地区ドウマにいる反政府勢力が流したでっち上げだと主張した。

シリアを支援するロシア国防省内の「シリア・ロシア敵対勢力調停センター」の代表を務めるユーリ・エフトシェンコ少将はロシア国営タス通信の取材に対し、シリア政府の関与を否定した。

「われわれはこの情報を強く否定するとともに、ドウマが武装勢力から解放されたあかつきには、放射能や化学兵器、生物兵器への防護態勢を整えたロシアの専門家を現地に派遣し、これらの声明がねつ造であることを証明するためのデータ収集に当たらせる」とエフトシェンコは述べた。

アメリカ政府は化学兵器攻撃で被害が出ているとの報告について、もし確認されれば即時の対応を国際社会に求めるとの立場だ。

米国務省は声明で、これらの報告は避難所にいる一般市民を含む「多数の犠牲者が出た可能性」を示していると述べた。また、シリア政府を「支援する姿勢を崩していない」ロシアは、今回の攻撃の「最終的な責任を負う」と指摘。「政権の過去の自国民に対する化学兵器の使用歴は疑う余地がない」とも述べている。

トランプ米大統領は8日、化学兵器による攻撃に関与した者は「大きな代償」を払うことになるとツイッターで述べた。

「シリアの愚かな化学兵器攻撃で女性や子供を含む大勢が死んだ。残虐行為が行われた現地はシリア軍によって封鎖され包囲されており、外の世界とは完全に遮断されている。(ロシアの)プーチン大統領、ロシアそしてイランには、けもの同然のバシャール・アサド大統領を支援した責任がある。高い代償を支払うことになるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

家計の金融資産、6月末は2239兆円で最高更新 株

ワールド

アブダビ国営石油主導連合、豪サントスへの187億ド

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ワールド

ブラジル前大統領が退院、初期の皮膚がん見つかる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中