最新記事

日本社会

教育現場は「ブラック労働」、若手教員の心身が蝕まれる

2018年4月25日(水)16時50分
舞田敏彦(教育社会学者)

なお病気離職率は年齢層別に出すこともできる。危機状況が強まっているのはどの層か。<図2>は、小・中学校教員の病気離職率の年齢カーブを1991年度と2015年度で比べたものだ。

maita180425-chart02.jpg

病気離職率はどの層でも増加しているが、その幅は若年層で大きい。この四半世紀にかけて小学校は4倍、中学校は3倍以上に増えている。最近の中学校では、体力の衰えた50代よりも、入職して間もない20代の病気離職率が高い。

今は学校現場も余裕がなくなり、先輩教員が若手を手取り足取りサポートするのが難しい。2004年に静岡県の小学校の新任女性教員が自殺した。先輩の助けが得られず、担当学級で頻発する諸問題に孤軍奮闘したことによる鬱が原因だったそうだ。

その一方で、各種の雑務を押し付けられる。中高の部活指導が教員の負担になっていることが問題視されているが,部活指導時間は若手教員ほど長い(OECD「TALIS 2013」)。人口全体と同じく教員の年齢構成も逆ピラミッド型の県が多いが、量的に多い中高年層が若年層の重荷になっている。若年教員の病気離職率の増加は、こうしたいびつな構造も1つの要因と考えられる。

国もようやく学校の異常事態を認め、昨年夏に「学校における働き方改革に係る緊急提言」が出された。タイムカードによる勤務時間把握、校務のICT(情報通信技術)化、部活動の休業日の導入、部活動指導員やサポートスタッフの活用、といったことが提言されている。一般社会では当然のことを学校に導入し、教員免許がなくてもできる仕事は他のスタッフにやってもらおう、ということだ。

未来の担い手を育てる学校で、ブラック労働のモデルを見せていいはずがない。学校における働き方改革は、当の教員だけでなく、子どもたちの将来の幸福にとっても必要不可欠だ。

<資料:文科省『学校教員統計』
    文科省『学校基本調査』

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中