最新記事

シリコンバレー

シリコンバレー成長信仰の危険なツケ

2018年4月24日(火)16時30分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

「人と人が身近になる世界」だの「持続可能な輸送手段の台頭を加速する」だのと高邁なミッションを掲げれば、不適切な手段を正当化するのも楽になる。

例えばフェイスブックは16年に、中国市場再参入をにらんで、ひそかに検閲ツールを開発した。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ザッカーバーグは当時、「完全に自由な会話はできなくても、そこに加わっていることが当社のためになる」と語っていたそうだ。口では世界をオープンにと言いながら、独裁政権に検閲の道具を渡すようでは高邁な使命が泣く。

ボスワースの「醜い真実」はシリコンバレー全体に当てはまる。なるべく早く、なるべく大きくならなければ生き残れないというのが、超競争社会に生きる彼らのメンタリティーだ。コンテンツ配信から運送業まで、自動化をめぐる競争は21世紀の合理化競争の要であり、勝たねばというプレッシャーの下で倫理や規制は二の次にされる。

死に物狂いの競争に歯止めをかけられるのは誰か。市場だろうか。投資家の不安は、フェイスブックやテスラの株価を押し下げた。ツイッターではフェイスブックやウーバーのボイコット運動が起きている。会社のイメージダウンで優秀な人材の確保が困難になれば、長期的な影響は大きいだろう。

しかし市場が社会への悪影響に目をつぶり、野放図な成長を歓迎するなら、シリコンバレーは成長最優先の姿勢を変えないだろう。そうであれば、残るは政治の介入しかなさそうだ。

シリコンバレーは一貫して政治の介入を嫌い、政府もまた技術革新の速さを口実に介入を避けてきた。特に共和党議員は企業の「自主規制」を支持し、「緩めの規制」を訴えるロビイストに弱い。ロビイストの主張の前提となっているのは、企業は議員や役人よりもテクノロジーに通じており、節度を持って利用できるという考えだ。

企業のほうが技術に詳しいのは間違いない。自分たちが管轄する技術について、役人はたびたび無知をさらす。自称ハイテク通の議員たちも、いまだシリコンバレーに説明責任を負わせる枠組みを作れずにいる。

デジタル・プライバシー法や自動運転車の明確な安全基準。そうした規則が十分な議論を経て策定され、施行されるなら好ましいことだ(あいにく政治の議論は拙速になりがちだが)。

社会正義のためならば、どんな企業も野心の暴走にブレーキをかけるはず――そんな期待が裏切られた以上、仕方がない。シリコンバレーにも一定の倫理規制が必要だろう。暴走が死につながる前に。

<本誌2018年4月24日号掲載>

© 2018, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米のガザ停戦案受け入れ

ビジネス

インドネシア新財務相、8%成長も「不可能ではない」

ビジネス

インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相を解任、後任にプ

ワールド

対ロ制裁は効果ない、ウクライナ戦争で方針変えず=ク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給与は「最低賃金の3分の1」以下、未払いも
  • 4
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 7
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 8
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 9
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 10
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中