最新記事

テクノロジー

ホーキングが遺した警告「富を再分配しなければ人類は貧乏になる」

2018年3月15日(木)18時06分
ニコール・グッドカインド

人工知能が完全に人間と置き換わるのでは、と心配していたホーキング Lucas Jackson-REUTERS

<3月14日に死去したスティーブン・ホーキング博士は、技術革新がますます人間の雇用と所得を奪うことを危惧していた>

「車いすの天才科学者」として知られるイギリスの宇宙物理学者スティーブン・ホーキングが3月14日に76歳で死去した。世界最高の頭脳として人類に対する警告を数々遺したが、富の再分配と格差解消を訴えていたことはあまり知られていない。

ホーキングは2015年、米ニュースサイト「レディット」のイベントで、技術革新に伴って人々の経済格差が拡大するのを食い止める唯一の方法は、富の再分配だと述べていた。ホーキングの死後、ネットで多くのユーザーがその言葉をシェアしている。

レディットのユーザーはホーキングにこう聞いた。「技術革新で人間が仕事を奪われる可能性はあるか。自動化すれば人間より速く安く仕事ができるので、大量失業につながるのではないか」

それに対してホーキングはこう答えた。「ロボットが必要なものを全て生産するようになれば、富の分配をどうするかによって結果は大きく違ってくる」

「もしロボットが生み出す富を皆で分け合えば、全員が贅沢な暮しをできるようになる。逆に、ロボットの所有者が富の再分配に反対して政治家を動かせば、大半の人が惨めで貧しい生活を送ることになる。今のところ後者の傾向が強い。技術革新で富の不平等は拡大する一方だ」

答えはベーシックインカムか

米インディアナ州ボールステイト大学の調査によれば、2000~2010年の製造業における雇用喪失の87%は、自動化と技術革新が原因だった。米大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によれば、アメリカでは自動化に伴い、今後15年間で40%近くの雇用が奪われる可能性があるという。

ホーキングは昨年11月の米誌ワイアードのインタビューで、AI(人工知能)の進歩でこれから何が起きるか心配だ、とも語っていた。「もう後戻りはできない」「AIの開発を進める必要はあるが、それがもたらす真の脅威にも注意すべきだ。AIが完全に人類と置き換わるのではないかと心配している」

テスラを創業したイーロン・マスクとマイクロソフトを作ったビル・ゲイツもこの問題を重視してきた。マスクは、政府が暮らしに必要な最低限のお金を無条件で全ての国民に配る「ユニバーサル・ベーシックインカム」の導入を支持し、自動化の拡大で必ずそれが「必要」になる、と主張する。

ゲイツは人間の仕事を奪うロボットに課税すべきだ、と言ってきた。「年収5万ドルを稼ぐ工場労働者なら、その収入に対して課税され、所得税や社会保険料などを全て負担している」と、ゲイツは米ビジネスメディア「クオーツ」のインタビューで言った。「もしロボットが人間に置き換わるなら、人間と同じように課税すべきだ(持ち主に)」

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イラン、11日に第4回核協議 オマーンで

ワールド

習氏、王公安相を米との貿易協議に派遣=新聞

ビジネス

独首相、EUの共同借り入れ排除せず 欧州の防衛力強

ビジネス

独立したFRBの構造、経済の安定を強化 維持される
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中