最新記事

メキシコ

ポピュリスト大統領が次はメキシコに誕生する?

2018年3月7日(水)10時50分
リチャード・マイルズ

2月に大統領選出馬を表明したオブラドール Henry Romero-REUTERS

<元メキシコ市長のロペス・オブラドールが当選すれば、強硬路線の下で対米政策は様変わりする>

7月1日の大統領選が近づくにつれて、今度はメキシコの有権者が既存政治への怒りをぶちまけることになりそうだ。

イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領当選、フランスのマクロン大統領当選......。このところポピュリズムが世界中で炸裂しているが、次はメキシコでポピュリストの指導者が生まれるかもしれない。

だが、最有力候補に新味はない。政界に入って40年を超え、新興左派政党「国家再生運動」党首のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(64)だ。

彼はメキシコ市長の座を捨てて挑んだ06年と12年の大統領選で敗北。ベネズエラのチャベス前大統領のような左派ポピュリストのイメージを拭えなかったからだ。特に僅差で敗れた06年の大統領選後には、自分こそ「正当な大統領」だと主張して、かえって国民の信頼を損ねた。

今回、彼は汚職と治安という2大争点に絞って訴えている。メキシコではこの4年で州知事32人中9人が、資金洗浄や詐欺などの疑いで起訴されたり捜査対象になったりしている。

17年8月には、メキシコ国営石油公社の元トップ(ペニャ・ニエト大統領の選挙戦も率いた大物)がブラジルの建設大手オデブレヒトから1050万ドルを受け取っていたことが発覚した。ペニャ・ニエト自身にも、夫人宅のために政府の契約業者が700万ドルを負担したとの疑惑が浮上。制度的革命党(PRI)と国民行動党(PAN)の2大政党の政治家はやりたい放題だという空気が広がった。

治安は、殺人事件の統計を始めた97年以来最悪だ。この1年で約2万9000人が殺されたが、カルテル(麻薬組織)による処刑もどきの事件が多い。多くの国民は政府の無策も一因とみている。政府高官とカルテルが結託しているとの見方もある。

国際社会に背を向ける?

ロペス・オブラドールは昨年秋から、支持率で他候補に2桁台のリードを保ってきた。2大政党にはめぼしい候補者がおらず、無所属候補も少ない。

彼は候補者の中で自分だけが不正にまみれておらず、卑劣でもないと主張する。「隠れ左派」ではないかと危ぶむ声に対しては、緊縮財政や減税、透明性ある政策を訴える。

彼が当選すれば、対米政策は石油探査、犯罪対策、地域の民主化の3分野で変わりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安リスク「十分注意する必要」と新藤経財相、G

ビジネス

トランプ氏SNS企業、モルガンSなどが株式取得 第

ワールド

豪4月就業者数は予想以上に増加、失業率4.1%に上

ビジネス

米バークシャー、保険大手チャブ株を67億2000万
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中