最新記事

金正恩

偽造旅券で日本潜入、金正恩一家の行き先は「美空ひばり記念館」

2018年3月1日(木)11時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

ロイターが27日付で配信した金正恩のブラジル国籍の偽造パスポート画像 REUTERS 

<金正日、金正恩のブラジル国籍の偽名パスポート画像が配信されたが、北朝鮮の独裁者一族は過去に何回も日本に密かに入国していたことが知られている>

ロイター通信は28日、北朝鮮の故金正日総書記と金正恩党委員長が不正に入手したブラジルのパスポートで西側諸国のビザ申請をしていたと、件のパスポートの写真とともに報じた。日本に渡航した可能性もあるとしている。

公開されたパスポートの写真には、明らかに金正恩氏と判断できる顔写真が添付されている。

ロイターの報道によれば、金正恩氏の写真が貼られたパスポートの氏名は「Josef Pwag」で、生年月日は1983年2月1日。金正日氏の方は、氏名が「Ijong Tchoi」、生年月日は1940年4月4日となっている。

実は、このうち金正恩氏の偽名については、筆者も2012年の初めまでに把握。『いまだから知りたい不思議の国・北朝鮮』(洋泉社MOOK)という本に書いていた。それだけではない。この本の中では、次のような情報も明かしている。

金正日氏の妻・高ヨンヒ氏は1997年と2000年に来日。来日時には美空ひばり記念館(現・京都嵐山美空ひばり座)や銀座でのショッピングを楽しんだ。金正恩と金正哲(ジョンチョル)は1991年に来日。入国時の偽名は金正恩が、報道されているとおりの「ジョセフ・パク(Josef Pwag)」、金正哲が「エルメル・パク(Ermel Pwag)」。兄の方も偽装ブラジル旅券だったという。

彼ら以外では、金正日氏の妹の夫である張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長――すなわち金正恩氏ら兄妹の叔父も、1980年前後に氏名や肩書を偽装して2回ほど来日していたのが確認されている。

末っ子の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の来日の情報はいまのところは聞かないが、先の話がすべて事実なら、金正恩ファミリーのほとんどが日本に極秘入国していたことになる――。

金正恩氏の母・高ヨンヒ氏が大阪出身であることはよく知られている。

彼ら独裁者ファミリーにとっては、偽造旅券の入手などお手のものだったということだ。ならば、北朝鮮においても日本を懐かしんでいたとされる彼女が、お忍びで「里帰り」していたとしてもおかしくはないし、息子たちの「日本潜入」にも喜んだのではないか。ちなみに息子たちは、やはりディズニーランドで遊んでいたそうだ。

ただ、偽造旅券による日本潜入と言えば、有名なのは成田空港で拘束(2001年5月)された、金正日氏の長男・金正男(キム・ジョンナム)氏だ。彼はこの件で、権力の中枢から遠ざけられることになったと言われる。

<参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者

本当ならば、ちょっと理不尽な気がしてしまうのは、筆者だけだろうか。

また、金正男氏拘束の背景には、高ヨンヒ氏一派による工作があったとも言われるが、それもこの際、改めて検証してみる価値はあるかもしれない。

<参考記事:金正男氏を「暗殺者に売った」のは誰か...浮かび上がる「裏切り者」の存在

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中