最新記事

中国

ウイグル絶望収容所の収監者数は89万人以上

2018年3月13日(火)15時15分
水谷尚子(中国現代史研究者)

著名なウイグル人民族主義者の出身地も拘束率が高い。例えば現在の世界ウイグル会議総裁であるドルクン・エイサの出身地ケリピン県は2割以上、1930年代に東トルキスタンイスラーム共和国を南新疆に興そうとしたムハンマド・イミン・ボグラの一族が住んでいたホタン県では、ウイグル人やカザフ人の4割近くが拘束されている。

ウイグル人やカザフ人らを収監し、愛国主義教育と漢語使用を強要し始めたのは、元チベット自治区党書記だった陳全国(チェン・チュエングオ)が、16年8月に新疆ウイグル自治区党書記になってからだ。16年末に試験的に収容が始まり、17年から大々的に行なわれるようになった。陳全国がチベットにいた頃、チベットでは約100人を優に超えるチベット人が党のチベット政策への抗議を込めて焼身自殺したことからも分かるように、陳は少数民族弾圧の手腕を党に買われて新疆党書記に「出世」した。

留守児童の死と、収容所で死んだ子ども

収容所では携帯電話を充電することさえできないが、ごくまれに内部の声も漏れ伝わってくる。強制収容所問題を報じ続けているアメリカの短波ラジオ放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」の17年8月22日付ウイグル語放送によると、同局記者が「収容者から、直接話を聞きたい」と収容所員宛に掛けた電話に、偶然出たアブドゥジェリル・アブドゥケリム(ウイグル人)は、「グルジャ県内の強制収容所に収監された理由は、息子をトルコ留学させたからだ」とインタビューに答えている。つまり収監の正当な理由など無いのだ。文化大革命の時代と同様、「反革命」「反愛国」的と見なされれば、誰でも収監される。

ウイグル人強制収容政策が始まって1年を過ぎた最近、国外在住ウイグル人の間で最も懸念されているのが、「留守児童」の問題だ。親族が収容所送りとなり幼児だけ自宅に取り残されているケースが多発し、残された幼子たちは孤児収容所送りとなることが多いものの、自宅に残された幼児も多数いて、そうした子どもが事故死したとの事例も頻繁に聞こえてくるようになった。さらに「非人道の極み」として聞こえてくるのが、収監された子どもの死亡ニュースである。

「留守児童」問題については、ホタンのグマ県コクテレック村役場が作ったチラシ(写真)が、その深刻な事態が露呈させている。RFAの18年3月5日の報道によると、コクテレック村のエスマ・アフメット(8歳)は、石炭ストーブの上にのせていた鍋が倒れたことが原因で、全身60%の大やけどを負った。父母と兄は再教育のため不在で、エスマは自分で食事を作ろうとして事故に遭った。村役場はこの状況に心を痛め、治療には30万元が必要だ、とのビラを配布した。

uighur180313-pic02.jpg

コクテレック村役場が作ったチラシ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 運
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中