最新記事

北朝鮮

金正恩のお菓子セットが「不味すぎて」発展する北朝鮮の資本主義

2018年2月15日(木)11時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

兵士たちの食糧は、協同農場からの輸送過程で横流しされ続ける。食糧を受け取った軍の幹部は、ただでさえ目減りしてしまった食糧を横流ししたり、市場に売り払って別の安いもので埋め合わせたりする。

銀シャリを腹いっぱい食べられるはずの兵士に与えられるものは、トウモロコシ飯やジャガイモなどの貧相な食事だ。兵士たちは自主的に畑を耕したり山菜採りをしたりして、足りない食糧を補おうと必死だが、それでも足りないため、民家や協同農場を襲撃したり、国境を越えて中国で悪事を働く。

1977年、金日成氏の65歳の生誕記念日から配られるようになったお菓子セットは、かつては北朝鮮の子どもたちにとって、何よりの楽しみだったそうだ。

しかし、横流しまみれのお菓子セットの価値はダダ下がりしている。

平安南道(平昌オリンピックに)のデイリーNK内部情報筋によると、市場では中国製、北朝鮮の国営工場製、個人業者製の3種類のお菓子が売られているが、安くて美味しいと評判なのは民間業者のものだ。

中国製は1キロ1万北朝鮮ウォン(約140円)、キャンディは7000北朝鮮ウォン(約98円)。それに対し北朝鮮国内の個人業者が作ったお菓子は、量はやや少ないものの5000北朝鮮ウォン(約70円)で売られている。これらのお菓子の半値で売られているのが、国家指導者から贈られたお菓子セットなのだが、そこまで安くても人気はないという。

それにしても、なぜ個人業者の作ったお菓子は美味しいのだろうか。

次に個人業者だが、自宅を改造したり国営企業の設備を借りたりして工場を営む彼らは、トレンドに敏感だ。また、売れ行きが生活に直結するため、より美味しいものをより安く提供しようとする。資本主義が根を張り始めた北朝鮮では、このような業者間の競争が美味しくて安いお菓子を生み出しているのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中