最新記事

進化

自分のクローンを作って爆発的に増える新種のザリガニ

2018年2月6日(火)16時32分
クリスティン・ヒューゴ

オスがいなくてもクローニングで一匹が何百万匹にもなるマーブル・クレイフィッシュ Ranja Andriantsoa

<北米からペットとしてドイツに渡った普通のザリガニが、わずか5年で驚くべき進化を遂げた。このままだといずれ地球を覆いそうだ>

ザリガニ(クレイフィッシュ)の仲間のほとんどは、人間と同じ方法で繁殖する。セックスをするのだ。ところが、ペットから進化を遂げたあるザリガニは、セックスをしない。代わりに自分のクローンを生み出すことで繁殖する。クローン能力を身につけたこのザリガニは今、オスなして爆発的に数を増やしている。

2月5日付けで学術誌ネイチャー・エコロジー&エボリューションに発表された論文によると、ドイツの研究者たちは、マーブルクレイフィッシュ(通称:ミステリークレイフィッシュ)と呼ばれる新種のザリガニのゲノム塩基配列を解読した。その結果、調べた11個体すべてのゲノムがほぼ同一であることがわかった。つまり、このマーブルクレイフィッシュは交配による生殖はしないということだ。北米に生息する原種は普通にセックスで繁殖するので、それとも異なる新種だということになる。

ドイツがんリサーチセンターの後成遺伝学部門を統括するフランク・リコは本誌に対し、「きわめて短い期間で進化的な事象が発生したということだ」と述べた。「長い時間が経てば、だんだん普通の繁殖方法に変化していくかもしれないが、現在この時点においては、大変珍しい現象が起こっているということだ」

リコの説明によると、新しい種の形成には通常、数千年かそれ以上の年月をかけた進化が必要だ。だが、北米原種のクレイフィッシュがペット業界で流通するようになったのはほんの数十年前のこと。そしてその中から、これまでとは異なるたぐいまれな種が誕生したことになる。

5年で新種に変化

この新種のクレイフィッシュが生まれた過程もまた驚くべきものだ。通称ファラックスと呼ばれるクレイフィッシュは最初、ペットとして北米からドイツに渡り、インターネットやペットショップ、熱帯魚店で販売されるようになった。ところが、1990年から1995年までの間に、ファラックスは新たな種へと進化した。人々は、すぐに新種だと気付いた。新種は体がマーブル模様で、メスしかいなかったためだ。

「メスしかいない。オスはどこにいるのか、とみんな首を傾げた」とリコは話す。

結局、マーブル模様のクレイフィッシュはメスしか存在せず、1年に2~3回、自分でクローン繁殖(単為生殖)をすることがわかった。

この新種のクレイフィッシュはあまりにも急激に増え、飼育していてもどんどんクローンが生まれる。そのため、ペットとして販売する分には好都合だが、水槽で1匹だけ飼いたい人にとって問題となった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、5万円割り込み足元400

ワールド

米軍、太平洋で麻薬密輸船を再び攻撃 3人死亡

ワールド

米、ロ石油大手の海外資産売却交渉を承認 買い手候補

ビジネス

GDP7─9月期は6四半期ぶりのマイナス成長、年率
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中