最新記事

米軍事

「核のボタン」をトランプは押せるか

2017年12月1日(金)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

大統領の行く先々に海軍兵が核攻撃の許可を出す装置を持っていく Kevin Lamarque-REUTERS

<米大統領が核ミサイルの先制使用を選んだら誰かがそれを止めることはできるのか――上院公聴会でシュールな議論が交わされた>

ドナルド・トランプのような人物に「核のボタン」を委ねていいのか。去る11月14日、米上院外交委員会がこの問題で公聴会を開いた。核使用の大統領権限が議論の対象になるのは随分久しぶりだが、絶妙なタイミングだったのは間違いない。

実際、この大統領ならツイッターの投稿ボタンを押す感覚で核のボタンを押しかねない。核兵器の使用に伴う戦略的な問題も倫理的な問題も、たぶん理解していない(あるいは関心がない)。仮にそんな人物が核攻撃を決定したとして、誰かが止めることはできるのか。現場は核ミサイル発射命令を拒めるのか。

公聴会は2時間続いたが、まず核心を突く発言をしたのは核戦力を統括する戦略軍の元司令官ロバート・ケーラーだ。「わが軍は無分別に命令に従うものではない」。心強い証言だ。アメリカの軍人に、違法な命令に従う義務はない。

では、と民主党のベンジャミン・カーディン委員は問い掛けた。大統領が核兵器の先制使用に踏み切るのを、法的に阻止することはできるのか。軍の独立法務官が大統領に対し、あなたが行おうとしている攻撃は違法だと指摘しても、大統領は構わず核兵器を発射できるのか。

非常に厄介な状況になる、とケーラーは答えた。「自分なら、『これについては疑問があります。命令を実行できません』と答えるだろう」

その場合、次に予想される事態は何か。カーディンがそう問うと、ケーラーは苦笑しつつ「分からない」と答え、「意思決定には人的要因が関わるということだ」と続けた。

そのとおり。トランプ時代には人的要因こそが懸念材料だ。

ジョージ・W・ブッシュ政権で国家安全保障会議(NSC)の顧問を務めたピーター・フィーバーも、ケーラーと同意見だった。「何かの拍子に大統領が先制攻撃を望んだとしても、実行には大勢の協力が必要で、彼らから同じような質問を受けることになるだろう」

しかし現実問題として、アメリカ大統領には誰の助言も受けずに核兵器の先制使用を決める法的権限がある。

北朝鮮とは今も戦争状態

核兵器使用の決断は大統領の専権事項だ。戦略軍の司令官や国防長官が反対することは可能だが、あいにく彼らは核攻撃の指揮系統に含まれていない。大統領の命令は国家軍事指揮センターの准将クラスに直接送られ、そのままICBM(大陸間弾道ミサイル)の格納庫や原子力潜水艦に配属されている将校に伝達され、彼らが核兵器の発射コードを解除し、ミサイルを発射することになる。

ケーラーが言うように、大統領が国防長官や司令官に助言を求める行政手順はあるが、その手続きを踏む義務はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、予備役5万人招集へ ガザ市攻撃控え

ワールド

ウクライナ北部に夜間攻撃、子ども3人含む14人負傷

ビジネス

米国との関税合意は想定に近い水準、貿易多様化すべき

ビジネス

英CPI、7月前年比+3.8%に加速 24年1月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中