最新記事

環境問題

中国養豚業に激震、環境対策強化で閉鎖=廃業を迫られる農家

2017年11月10日(金)13時40分


選択肢なし

前出のZhangさんの養豚場は貯水池に近すぎたため、農場を閉鎖して豚を売却する以外の選択肢がほとんどなかった。

強化された新公害基準は、水源地や人口密集地近くでの畜産を禁止している。他の地域でも、糞尿処理の基準が厳格化された。

チャイナ・アメリカ・コモディティー・データ・アナリティクスのYao Guilin氏は、環境検査は食肉の供給と価格に長期的に大きく影響すると指摘する。

小規模養豚場から屠畜(とちく)場に出荷される豚の数は、今年2000万頭以上減少して3億8000万頭となる一方で、メガ養豚場の生産数は1500万頭しか増加しないと、Yao氏は分析する。

規制を守らない畜産農家の悪臭や汚水に長年苦情を訴えてきた多くの村は、養豚場がなくなったことを歓迎し、代わって果樹園やエコツーリズムから収益を上げたいとしている。

だが、ロイターが取材した、北京や江蘇省、山東省、河南省の農村部にある飼育頭数50─1万5000頭の小規模農家8軒は、それぞれ将来への不安を口にした。

北京西部のある養豚農家の女性は、5000頭強の養豚場を閉鎖する見返りに政府が約束した2000万元の補償金を元手に、ホテルを建設する計画だという。だがほとんどの農家は、補償金では豚や設備を安値で売った損害をカバーできないと言う。

取材した農家のうち4軒は、まだ補償金を手にしておらず、他の収入源を見つけるのに苦労している。養豚以外の職業経験はほとんどないという。

「地元政府は、50万元の補償金を約束した。だがコストを穴埋めするには、少なくとも100万元必要だ」と、先月豚100頭を売却したという山東省の養豚業の男性は語った。

山東省で600頭強の養豚業を営む別の農家の男性は、地元当局から、数年以内に閉鎖の指示がある見通しだと告げられたという。当局側は、養豚業禁止区域を拡大するとみられている。

廃棄されたワクチンやもう必要がなくなった飼料が積み上がった北京近郊の農場では、前出のZhangさんが、近くでオーガニックな養豚場の建設を検討していると語った。だが政府の補償金がなければ、動くこともできない。

「心血を注いだ事業が、すべて消し飛んでしまった」

(翻訳:山口香子 編集:伊藤典子)

Hallie Gu Josephine Mason

[ZHOUCUN(中国) 5日 ロイター」


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中