最新記事

米中関係

北朝鮮危機、ニクソン訪中に匹敵する米中合意の可能性

2017年10月17日(火)18時01分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

もし中国が、外交面、経済面で北朝鮮に対する影響力を徹底的に行使して金正恩政権を核開発断念に追い込み、検証可能な方法で核開発放棄の要求に従えば、アメリカは北朝鮮を国家として承認し、経済支援を行い、将来的に2万9000人の駐韓米軍を撤退させることに合意するという内容だ。これには、北朝鮮の長年にわたるアメリカへの要求が集約されている。

この構想の土台になっているのは、ティラーソンが5月に説明した対北朝鮮政策だ。ティラーソンはこう言った。「アメリカは北朝鮮の政権交代も、政権崩壊も、朝鮮半島再統一の加速も求めない。(南北朝鮮を隔てる)北緯38度線の北側に米軍を派遣する理由も求めない」

戦争ではなく外交的偉業を

ティラーソンが「4つのノー」と命名したこの発言に、中国は注目した。中国共産党の一部は、アメリカはむしろこの4つすべての実現を目指しており、北朝鮮核危機を口実に金政権の崩壊するつもりだと信じている。だが中国共産党の幹部は米政府に対し、ティラーソンの構想は米中合意の土台になり得ると伝えた。

ジョージ・W・ブッシュ元米政権で国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長を務めたデニス・ワイルダーは、先日彼が北京で面会した中国政府の関係者は、ティラーソンの発言に対するトランプ政権の本気度を知りたがったという。ティラーソンはトランプを説得してから発言をしたのか、それともティラーソンの独断だったのか。「4つのノーに関する話題でもちきりだった」とワイルダーは言う。米国務省のヘザー・ナウアート報道官は記者会見で、もし北朝鮮が「検証可能で完全な」非核化を行えば、その後にトランプ政権はティラーソンが披露した構想の実現に取り組むと言った。

アメリカと中国が北朝鮮問題で手を打つには、まだ長い道のりがある。トランプ政権としても、トランプとキッシンジャーがその可能性について意見を交わしたとは公言しないだろう。だがトランプは大胆な行動が大好きだ。もし北朝鮮問題でそうしたければ、戦争をするより、歴史的な外交合意を目指す方が望ましい。キッシンジャーも8月に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した論説で、外交的解決に向けた米中の重大な取引を支持する立場を示した。「(朝鮮半島の)非核化は、経済制裁を強化するだけでは実現できない」「アメリカが中国との間で理解を共有するためには、最大限の圧力と実行可能な保証が必要だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中