最新記事

欧州

ドイツ極右政党躍進の意外すぎる立役者

2017年10月16日(月)11時45分
ポール・ホッケノス(ジャーナリスト)

ワイデルは私生活の面でも一般的な「極右」のイメージにそぐわない。彼女はスイス在住で映画制作者の女性と内縁関係にあり、養子が2人いる。彼女たちは合法的なパートナーとして認知されているが、「結婚」には踏み切っていない。

ドイツではこの夏まで、同性婚は違法だった。AfDは伝統的な家族構成を支持しており、もしも以前から連邦議会に議席を持っていれば、同性婚承認に反対票を投じていたはずだ。

しかしワイデルは、自分がレズビアンでもAfDの綱領に反するわけではないと言う。AfDの綱領は性的傾向についてあまり触れていないが、伝統的な家族の在り方を支持している。ドイツ国内のメディアはAfD党内の同性愛嫌いを繰り返し指摘しているが、ワイデル自身はAfD内で偏見や差別の対象となったことはないと語る。

昨年ザクセン・アンハルト州の議会では、同性愛を違法とする諸国を非難する演説をしていた某議員をAfDの所属議員が遮って、「ドイツでも違法にすべきだ!」と叫んだことがある。この件を受け、家族とは何かと問われたワイデルは、「子供がいるところ」だと素っ気なく答えている。

AfDとの協力に前向きな政党はないため、連邦議会におけるAfDは「声高な野党」以上の存在にはなれない。しかし今までよりも議会が騒々しくなるのは確かだし、感情的・差別的な主張も増えるだろう。

議会全体が今よりも右寄りに振れて、AfDの過激な主張が受け入れられやすくなる恐れもある。それこそがAfDの望むところだ。そして党勢拡大の立役者ワイデルは少なくとも今後4年間、党の指導部にとどまるだろう。彼女は党内でこそ穏健派だが、それでも十分に不吉だ。

9月24日はドイツのリベラル色が少し薄くなった日として記憶されるだろう。さらに薄まるかどうかは、今後の主要政党の出方次第だ。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年10月17日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中