最新記事

テロ組織

ラッカ陥落でもISISは死なず

2017年10月26日(木)16時30分
マイロ・カマーフォード

magw171026-raqqa02.jpg

ラッカのスタジアムの下でISISが設けた拘置所が見つかった Erik de Castro-REUTERS

既にその兆候は見えている。ISISの英字機関誌ダビクは、ISISに敵対する同盟国軍を、戦いが続いたイスラム創成期における預言者ムハンマドの敵の連合に重ね合わせている。

いま重要な問題は、どうやって別のジハード勢力が灰からよみがえるのを阻止するかだ。

第1に、統治者のいない荒廃した地域を安全にし、社会にサービスをもたらすことだ。ISISは社会の緊張や不平等、非効率な統治、汚職を利用して、自分たちが社会にとって唯一の選択肢だと思わせていた。

ここで重要なのは、ラッカを陥落させたSDFが侵略者と見なされないようにすることだ。地元民の主導する勢力がコミュニティーの安全を維持しなくてはならない。

国境も世代も超越して

第2に、組織としてだけではなくイデオロギーとしてのISISに対峙することだ。

ISISが掲げる原理主義的なサラフィー主義は各国に拡大し、世代を超えて広がっている。サラフィー主義は人々の純粋な怒りに付け込み、コーランにはカリフ国の正統性が書かれていると解釈し、シャリーア(イスラム法)を厳格に守らせようとする。

既にシリア北部のイドリブ地方では、アルカイダ系の武装勢力が新たなイスラム国の樹立計画に着手。コミュニティーに浸透し、さまざまな反政府勢力の中で地位を築いている。

中東やアフリカで活動する同じような分派はこれから長く存続し、ISISと同じ価値観と目標を掲げるだろう。

しかし、ISISが本当に生き永らえる場はネット空間だ。彼らはさまざまなツールで、ジハードのコミュニケーション手段に革命を起こした。

ISISがプロパガンダに使うメディアは、雑誌や動画から、新聞、ラジオ、教科書、神学書にまで及ぶ。各国政府やテクノロジー企業による抑え込み戦略は成功しつつあるが、ISISは新たな戦術を生み出しながらコンテンツやネットワークを発展させてきた。

ISISの持つネット上での影響力は、過激な思想家やテロリストに永遠の命を与えてきた。彼らが死んでも、イデオロギーは生き残る。組織の指導者が入れ代わっても、思想は変わらずに生き続ける。

現在のISISは、アブ・バクル・アル・バグダディが率いているという。彼は生存しているらしく、録音された音声が9月にネットで公開された。

しかし死んでいようと捕らわれていようと、バグダディはジハードの輝ける殿堂に祭り上げられ、暴力をあおり続ける。同じように、牙城のラッカが崩れ落ちても、ISISは中東や欧米の都市に今後も暗い影を投げ掛け続けるのだ。

<本誌10月24日発売最新号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る

ワールド

マクロン氏「プーチン氏と対話必要」、用意あるとロ大

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中