最新記事

ミャンマー

ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(前編)

2017年9月20日(水)16時00分
前川祐補(本誌編集部)

ミャンマーにはロヒンギャ以外にも、政府と対立する民族が多くある。ラカイン州にはラカイン族と呼ばれる民族がおり、歴史的に政府との軋轢が絶えなかった。彼らとの全面闘争を避けたいミャンマー政府は、同じ地域に住むロヒンギャを悪玉に仕立てることで、ラカイン族の政府への反感を和らげようとしている。

「ラカイン族のトップは、軍とつながっている」と、日本でロヒンギャ難民として暮らすアブールカラムは語る。「政府はラカイン族をコントロールするためにロヒンギャを利用している」

アブールカラムは88年にヤンゴンで起こった民主化を求める学生運動に参加。その時、ロヒンギャ以外の民族もミャンマー政府と激しく対立していることを、身をもって知ることになった。

短期間で終わった民主化運動の後、アブールカラムは他の学生らと共に当局から追われる身になった。ヤンゴンを脱出し、タイとの国境沿いに向かって逃げた。一緒に逃げた7人の友人のうち、1人は豪雨で増水した川に流されて死んだ。

疲労困憊でたどり着いたのは、カレン族が住む地域だった。ミャンマー政府と長年対立している民族の1つで、自前の軍隊も持つ反政府勢力の象徴的な存在だ。

食べ物や水が体に合わず高熱を出し続けたアブールカラムだったが、そこで過ごすうちに、ミャンマー軍と戦おうという思いが湧いてきた。「恐ろしく強い」カレン軍ならできるかもしれない、と。

この後3カ月間、アブールカラムはカレン軍に入隊し軍事訓練を受けた。そしてある日、カレン軍とミャンマー軍の武力衝突に直面した。カレン側は10人前後、対するミャンマー軍兵士は数百人規模。圧倒的に劣勢だったが、それでもカレン軍はミャンマー軍兵士を次々と撃ち殺していったという。

自分にはできない。殺戮の光景を目の当たりにして思いは変わった。「軍が悪いのではなく政治が悪いのだと思った」。傍らでは、カレン族の子供がミャンマー軍に銃口を向けていた。

後編に続く

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 10
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中