最新記事

人権問題

キム・ギドク監督だけでない! 韓国の女優ら、撮影現場の暴力を告発

2017年8月25日(金)07時00分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

女優A氏に訴えられたキム・ギドク監督(中央)と、後ろはA氏の告訴に関して行われた共同対策委員会の記者会見(フォトコラージュ) YTN / YouTube

<苛酷なスケジュールのなか、沢山の男性スタッフの中で、理不尽な暴力や意に沿わない形での性的な演技を女優が求められたとき、彼女たちは拒むことはできないのか?>

韓国のみならず、日本など海外でも名の知られた韓国人映画監督の一人キム・ギドク。彼が今、韓国で2013年に制作・公開された映画「メビウス」に関して注目を浴びている。この映画は、第70回ヴェネツィア国際映画祭でも上映され、日本では2014年末に公開されている。

事の発端は、映画で母親役にキャスティングされていた女優Aが、キム・ギドク監督を告訴したのだ。告訴内容は「メビウス」の撮影現場にて、女優Aが監督に頬をぶたれ、さらに男性器を掴むシーンでは、台本には"模型の性器"と記してあったのにも拘らず、撮影現場にて男性俳優の性器をつかむよう指示された、というものだ。撮影は途中で中断となり、結局彼女はこの役を降板した。その後この女優Aに代わって別の女優(イ・ウヌ)が一人二役で母親役も務め、無事完成したのである。


問題となったキム・ギドク監督作品「メビウス」の予告編 southern all films / YouTube

キム・ギドク監督と言えば、毎回作品を発表するごとに、そのセンセーショナルな作品内容が注目を浴びてきた。さらに特徴的なのは、脚本/プロデューサー/編集など多くの映画製作の役割を自ら手掛ける作品が多く、撮影日数もかなり短い。1996年に低予算映画「鰐〜ワニ〜」でデビューして以来毎年のように作品を発表し続けており、韓国内はもとより海外での知名度が高く、カンヌ国際映画祭・ヴェネツィア国際映画祭など各映画祭で常連参加している。2008年には日本人俳優オダギリジョーを起用し「悲夢」という恋愛映画を公開した。

センセーショナルな作風とは異なる素顔

キム・ギドク監督は2004年、私が学生として通っていたソウル芸術大学映画学科の講師として講壇に立ち、私達の映画制作の指導教授を務めていた。当初監督本人に会うまでは、その作品が暴力的だったり、性的描写が激しい作品が多いため、学生たちは緊張を隠せずにいたが、授業が始まるとその印象はすぐに変わった。とてもおしゃべりで、にこやかな素直なおじさんといった人柄で、いかにも監督といった印象とは正反対。常に何かに興味を持っていて、それを多くの人に共有したいという欲求が高い人だった。

【参考記事】あの〈抗日〉映画「軍艦島」が思わぬ失速 韓国で非難された3つの理由
【参考記事】女性脱北ブローカーの数奇な運命を追ったドキュメンタリー『マダム・ベー』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決

ワールド

ロシア、ウクライナ攻勢強める 北東部と南部で3集落

ワールド

米、台湾総統就任式に元政府高官派遣
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中