最新記事
防衛

「普通の国」日本の戦争できない未来

2017年8月23日(水)15時10分
辰巳由紀(米スティムソン・センター主任研究員)

内閣府が今年発表した最新の高齢社会白書によると、日本の総人口が減少を続けるなかで、全人口に高齢者(65歳以上)が占める割合は伸び続け、2036年には全人口の33.3%、2065年には38.4%が65歳以上になるという試算が出ている。

その割合が増えるに従って、年金を含めた高齢者を対象にする支出が日本の政府予算に占める割合は当然増加し、その結果、防衛費を含む他の予算が圧迫される。しかも、安倍政権が発足後に唱えていた「税と社会保障の一体改革」は何らめどが立っていない。

このような状況の中で、防衛費をどの程度確保できるのかは、これからますます深刻な問題になっていく。自民党の安全保障調査会は、今後の日本の防衛力整備を考えるなかで防衛費を「NATO諸国の公式指針であるGDPの2%」という水準を目安にするべきだという提言を中間報告で紹介している。しかし2%はおろか、現在のGDP1%レベルを維持することすら困難になる可能性がある。

【参考記事】日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ

人口の高齢化が進むにつれて、自衛隊の定員をどのように確保するかも課題となる。既に16年度版防衛白書では、少子高齢化の影響で自衛隊の定員充足率が影響を受けていることに言及されている。人工知能(AI)やビッグデータなどの先端技術を活用することで、例えば指揮・通信・偵察・情報収集分析などの分野で、これまでよりも少ない人数で必要な作業を行うことが可能になる場合もあるだろう。

職種による定年延長、女性隊員のこれまで以上の活用などで一部、対応できる部分もある。ただ、自衛隊の「基礎体力」となる10代後半〜20代半ばの人口が減少を続ける傾向は変わらない。

2050年の国防を考えるときに議論するべきは「日本が戦争をできる国になっているのか」どうかよりも、むしろ、「必要な防衛力を維持できるだけの人口と国家財政が33年後の日本にあるか」かもしれない。

<本誌2017年8月15&22日号「特集:2050日本の未来予想図」より転載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年8月22日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ

ワールド

全米で反トランプ氏デモ、「王はいらない」 数百万人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中