最新記事

ファッション

マーガレット・ハウエル、ミニマリズムの女王と日本の意外な関係

2017年8月19日(土)15時00分
ダニエル・デメトリオ

ハウエルはファッションではなくスタイルを演出していると語る(写真は14年のロンドンコレクション) Suzanne Plunkett-REUTERS

<シンプルで上質なライフスタイルを表現する、ハウエル独自の美学の背景には日本との深い関係があった>

今から40年前、マーガレット・ハウエルはロンドンのサウス・モルトン・ストリートに、自身の名前を冠した最初のショップを開いた。彼女が生み出す服は多くの男女に愛され、世界的なビジネスに成長したが、出発点となったオープニングイベントは地味なものだった。

はるか遠い思い出だが、簡素な内装を自分で手掛けた喜びは色あせていないと、ハウエルは言う。彼女にとって、それは当時の「高級志向のあでやかな装い」への解毒剤だった。

ハウエルは常にシンプルさと洗練を追求し続けている。ミニマリズムの美学は今でこそ一般的だが、華やか志向の70年代にはむしろ急進的だった。

仕立てと伝統的な素材へのこだわりは、まさに英国流。本物のアイリッシュリネン、天然100%のウール、ハリスツイード。ハウエルの服は上質の食事のように、信頼性と親しみやすさで心を和ませる。

10年前からは機能的なシンプルさの哲学を家庭用品にも広げ、ティーポットや繊維製品、椅子などを手掛けている。ランプのアングルポイズや木工家具のアーコールなど、イギリスの老舗メーカーから限定デザインも出している。

【参考記事】<写真特集>公務引退の英王室フィリップ殿下、帽子にみる装いの粋

ヨーロッパではイギリスの9店舗のほか、フランスやイタリアなどに21店舗を構える。アメリカではバーニーズ・ニューヨークなどで取り扱っている。

日本での人気は、かのマーサ・スチュワートも羨むほど。カフェ併設のショップを含め102店舗を展開している。

ハウエルは東京のオフィスにあるプレスルームで(もちろん、白を基調としたミニマルなデザインだ)、自分のデザイン哲学は40年間ずっと変わらないと語る。「品質に決して妥協せずに、進化してきた。40年前と同じ納入業者に頼むときもある」

現在70歳。ストライプのTシャツに黒いパンツを合わせ、足元にはナイキのスポーツシューズ。60年代後半にロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで美術を学んだ時代から、驚くほど変わらない自然体だ。

卒業後間もなく、バザーで見つけた1枚の古着――ピンストライプのメンズシャツ――が彼女のキャリアを変えた。着心地の良さと美しいデザイン、上質な生地の完璧な組み合わせに刺激を受け、自宅の台所のテーブルでメンズシャツを作り始めた。

彼女のシャツは、ブランド「ジョゼフ」を創業したクリエーティブディレクター、ジョセフ・エテッドギーの目に留まった。彼の支援を受けて、77年にメンズコレクションの1号店をオープン。80年から始めたレディースは、男女両方の魅力を取り入れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中