最新記事

2050日本の未来予想図

日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ

2017年8月8日(火)11時20分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長、元ゴールドマン・サックス金融調査室長)

イギリス人の筆者がこうした冷静な分析をすると日本をこき下ろしていると誤解され、「イギリスのGDPは日本の約半分。それはイギリスの労働者がいいかげんで、技術力は半分だから」と反発を受けがちだ。だが深く分析しなくても、人口約1億2700万人の日本と約6600万人のイギリスとで、経済規模はどうなるかは子供でも計算できる。「イギリスの技術力は日本の半分。日本のものづくりなくして、あなたの国は成り立たない」と言っても議論にならない。

戦後の日本の自国民人口成長率は先進国の中で断トツで、高度経済成長の1つの主因となった。そうした人口激増でできたさまざまな余裕から、日本の経済力や日本的経営を妄信し、「日本に普通の経済原則は通じない」との勘違いが生じたのではないだろうか。

ただこれからは、今まで日本経済の優位性をもたらした人口の規模や増加は、先進国の中で最も速いペースで逆行する。今までの働き方や稼ぎ方を維持しようとすれば、日本経済はどんどん縮小。1000兆円以上の借金と社会保障の負担によって崩壊するだろう。

ロボットには期待できない

GDPは人口と生産性で構成されているから、人口減少社会で経済を維持して高齢者を支えるためには、生産性向上で乗り切るしかない。まずは、デフレや日本的資本主義といった口実や妄想をいち早く捨てること。計算機をたたいて、生産性を軸に全ての経済常識を再検証し、生産性を高める方向に切り替える必要がある。

経済を量と質の両面から見ると、経済の質は生産性に当たる。日本の生産性は国民全体で見ると世界27位だが、労働者に限ればスペインやイタリアより低く、先進国で最下位レベル。日本の生産性の低さは労働者の質の問題ではなく、経営戦略の問題だ。経営者に生産性向上への意識が低く、経済の変化に賢く対応できない。経営的に最も安直な戦略である価格破壊をして、しわ寄せを労働者に押し付ける。非正規雇用問題や格差拡大、賃金低迷は全てここから始まっているのだ。

日本の生産性問題は、高品質の割に価格が低過ぎるといった理由も指摘できる。最近の宅配業界の問題はその典型だ。生産性とコストの意識がない経営者が何にでも耐える社員を苦しめて、誰が見てもおかしい戦略を継続してきた。経営者の独り善がりであのようなサービスを実施して、社員がもらうべき給料を払ってこなかった。調査すらせずに、「顧客はそれを求めているので変えられない」と言いながら、いざ継続できなくなるとすぐにやり方を変える。消費者側も何の文句も言わない。やはり経営の問題だ。

【参考記事】世界トップの教育水準を労働生産性に転換できない日本の課題

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中