最新記事

映画

理想も希望も未来もなくひたすら怖いSFホラー『ライフ』

2017年7月7日(金)10時00分
ノア・ギッテル

国際宇宙ステーションの乗組員たちは火星で採取した地球外生命体に次々と襲われる ©2017 CTMG, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<宇宙ステーションで乗組員がモンスターと格闘する『ライフ』は、まるで不安が充満してパニックに陥った今のアメリカを見ているよう>

宇宙は人類の好奇心を駆り立ててやまない。1902年にジョルジュ・メリエスが『月世界旅行』を制作して以来、宇宙を舞台にした映画は数多く作られた。宇宙を畏敬の念でたたえた映画もあれば、恐怖に満ちた世界として描いた映画もあった。

『ライフ』は後者だ。真面目そうで内容を予想しにくいタイトルと、ジェイク・ギレンホールら豪華キャストから、人類の冒険心をたたえる壮大な映画を想像する人が多いかもしれない。だとしたら、このタイトルはマーケティング面で成功している。

はっきり言って『ライフ』はB級映画だ。バル・キルマー主演の『レッド・プラネット』ほどのB級とは言わないまでも、せいぜい『エイリアン』シリーズくらいと思っておけばいい。

何しろ、ストーリーも性格描写もほとんどない。ものすごくたちの悪い怪物が出てきて、登場人物と観客を90分にわたり、ひたすら怖がらせるだけだ。

国際宇宙ステーションの乗組員たちが火星で採取した生命体は、小さくてかわいらしい単細胞生物。だが酸素のある環境で急激に成長し、あっという間に海にいるエイのような姿の醜い化け物になる。さらに研究室を抜け出し、船内のあらゆる場所に出没。乗組員は逃げ場を失い、次々とモンスターの餌食になる。

モンスター映画の常として、登場人物が1人また1人と襲われ、状況はどんどん不穏になる。ある登場人物の場合は、怪物が口から入り込み、中から彼を破壊する。最後に残った2人は、例によって自己犠牲か自己防衛かという究極の選択を迫られる。

『ライフ』は不安が充満し、世界のありさまにパニックを起こしている今のアメリカを映し出した作品だ。危機を1つやり過ごしたと思ったら、怪物が次の危機を用意している、という悪夢が続く。

【参考記事】エイリアンとの対話を描く『メッセージ』は、美しく複雑な傑作

SF映画は娯楽でいい

ドナルド・トランプ政権をこわごわと見守るアメリカ人にとっては、日々経験している展開を思い起こさせる。これは冒険映画ではない。ホラー映画だ。

映画の世界で科学は文明の偉大な成果として描かれることが多い。だが『ライフ』では、人類の思い上がりとして扱われる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中