最新記事

自動車

飛行機よりはるかに危険、トラック業界の利益優先体質

2017年6月7日(水)20時17分
ハワード・アブラムソン(全米トラック協会の元上級役員)

大型トラックはただでさえ死亡事故が突出して多い Mike Blake-REUTERS

<死亡事故がダントツに多いのに、今以上にトラックを大型化したがる業界はどうかしている。安全技術を導入し、運転手の時短をして事故を減らすのが先決だ>

アメリカでは高速道路での死亡事故が右肩上がりで、道路や橋の老朽化が刻一刻と進んでいる。だがトラック運送業界はまたしても、公共の利益に反するトラック総重量規制の上限引き上げを米議会に働きかけている。

議会がこれまで再三にわたりトラック業界の要求を拒んできたのにはもっともな理由がある。トラックが大型化すれば車両のバランスが悪くなるうえ、ブレーキを踏んでから停止するまでの「制動距離」も長くなる。重大な事故が発生する危険性が高まるのだ。

現に、トラック関連の死亡事故は増加の一途をたどっている。2014~2015年までの1年間に、全トラックの走行距離は0.3%しか伸びなかったのに対し、トラック関連の死亡事故は4050件に達し、前年より8%も増えた。これまでの趨勢をあてはめれば、今年1年間でトラック絡みの衝突事故で死亡する人の数は、過去45年間に飛行機事故で死亡した人の総数を上回る。

トラック運送業界はそれでも、今年中に総重量規制の上限引き上げ法案を提出する構え。議会は既に2015年、州間高速道路を走行するトラックの総重量を1982年に定められた上限の約36トンから約41トンへと引き上げる法改正案を廃案にしているのだが。

トラックは急に止まれない

トラックが絡む死亡事故の多くは追突事故だ。米運輸省の統計によれば、2015年に道路工事区間で死者を出した衝突事故の27%は、大型トラック関連の事故だった。高速道路の通行量全体に占める大型トラックの割合はわずか10%前後に過ぎないので、大型トラックがいかに危険かわかる。こうした事故は、道路工事で停車中の車両にトラックが追突する場合がほとんどだ。

トラック運送業界は、誰もが安全に自動車を運転できる技術が開発されても、コストがかかるの一点張りで装備に抵抗する。多くの新型車両は自動ブレーキや車線逸脱警報装置、定速走行・車間距離制御装置などを搭載しているが、国内の高速道路を走行するほとんどのトラックは装備していない。

疲労が激しいトラック運転手の待遇改善を目指す連邦政府の動きにも、業界は抵抗を続けている。現行制度の下では、トラック運転手は週の労働時間が合計77時間以内であれば適法だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ

ワールド

アングル:殺人や恐喝は時代遅れ、知能犯罪に転向する

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中