最新記事

テロ組織

ISISが生んだ新時代の伝播型テロ

2017年6月19日(月)10時00分
ジェン・イースタリー、ジョシュア・ゲルツァー(元米国家安全保障会議テロ対策担当)

この手のプロパガンダは新兵募集を目的としたものだが、共同体感覚を育む効果もある。ISISは高度な編集技術を駆使し、ナレーション付きの残虐映像を流す一方で、彼らが築いていると称するコミュニティーの映像も流している。

彼らのコミュニティーはローカルなものでもある。映像ではシリアの拠点で外国人戦闘員が妻と共に「快適な生活」を享受する様子が紹介される。と同時にそれはグローバルな性格も持つ。世界中どこにいようと、ISISの思想に共鳴し、ISISの名の下に行動を起こせば、すぐさまその一員になれる。

過激化研究国際センターの上級研究員チャーリー・ウィンターは著書でISISのメッセージに潜む6つの要素を挙げている。残虐性、慈悲、被害者意識、戦争、帰属、ユートピアだ。なかでも帰属は「欧米の国々から新兵を引き付ける最強の要素」で、「お茶を飲んでくつろぐ戦闘員の様子などを動画や写真で盛んに見せることで、『カリフ制国家』の同志たちの兄弟愛を強く刷り込める」という。

将来に希望が持てない、単純に政治に不満がある、社会習慣になじめないなど、自分の居場所を見つけられない人々はこうしたメッセージに触れて、自分は独りぼっちではないと思える。

【参考記事】ノートPCの持ち込み禁止はISISの高性能爆弾のせいだった

実際、メッセージアプリ「テレグラム」には、ISISがローンウルフに向けて爆弾の製造方法などを教えるチャンネルがあるという。ローンウルフたちが仲間とチャットし、情報交換をすることで、ネット上には多数のISISシンパの仮想コミュニティーが生まれる。

このコミュニティーの参加者の中には暗号化されたメッセージで指導部から特殊な指令を受けている者もいるが、そうした指令を受けずとも、仲間とテロのノウハウを共有している以上、もはや彼らは単独犯とは言えず、本人もそう思っていない。

テロ専門家は長年、あるテロ組織が「指示した」攻撃と、その組織に「触発された」攻撃を区別してきた。

だがISISの場合、こうした区別はあまり意味がない。指導部は機関誌「ルミヤ」などの刊行物を通じてターゲットや武器、実行のタイミングなどをシンパに伝えられるからだ。そればかりか「いつでも、どこでも、どんな手段でも、やりやすい方法で攻撃しろ」という究極のメッセージも出している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランの報復攻撃にさらされるイスラエル、観光客4万

ビジネス

レアアース磁石確保に苦慮とフォードCEO=ブルーム

ワールド

カンボジア、タイとの国境紛争で国際司法裁判所に解決

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕と報道 標的リスト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中