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独メルケル首相、G7での同盟関係巡る「率直発言」の背景

2017年5月31日(水)09時20分

5月29日、戦後秩序の変化を巡るメルケル独首相の28日の発言はいつになく率直だった。トランプ米大統領への不満が高まる一方、フランスのマクロン新大統領と欧州改革で協調する決意を固め、メルケル氏が自らの立場をはっきりさせたという。写真はミュンヘンで28日撮影(2017年 ロイター/Michaela Rehle)

ドイツのメルケル首相はしばしば重要な政治的問題について慎重な言い回しをするが、戦後秩序の変化を巡る週末の発言はいつになく率直だった。トランプ米大統領への不満が高まる一方、フランスのマクロン新大統領と欧州改革で協調する決意を固め、ドイツ国内政治への配慮も高めた結果、メルケル氏が自らの立場をはっきりさせたと複数のドイツ政府高官や欧州当局者は話している。

メルケル氏は28日、先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)後にミュンヘンで演説し、「他国に完全に頼ることができる時代はある程度終わった。私はこの数日でそれを経験した。われわれ欧州人は自らの運命を自分たちの手に握らねばならない。欧州人として、自らの運命のために闘う必要があると知るべきだ」などと語った。

同氏は29日にも、前日の発言における多くの要点部分を繰り返し、こうした見解を意図的に発信したことが明らかになった。

では同氏がどうしてこのようなメッセージを送るに至ったのか。ロイターがドイツ政府や欧州連合(EU)の関係者に取材した結果、次のようないくつかの要素が影響した可能性がある。

選挙対策

9月24日のドイツ総選挙に関する世論調査では、メルケル氏率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)が、最大のライバルと目される社会民主党(SPD)に現在支持率で2桁の大きなリードを奪っている。しかしSPDなどは今後反トランプ氏を掲げ、それによってメルケル氏がトランプ氏に甘いと攻撃してきてもおかしくない。SPDは既に、トランプ氏がドイツに強く求めている国防支出増額などに反対すると表明した。

これに対してメルケル氏は、政治的リスクを覚悟して国防支出増額を支持。ただドイツがトランプ氏から距離を置く必要がある可能性を鮮明にした上で、トランプ氏の要求ではなく、欧州が米国から独立的な防衛能力を備えるために国防支出を増やすという別の論理を持ち出し、有権者を味方につけようとしている。

またメルケル氏はこれまで、自由貿易や温暖化対策、移民などの主要政策課題でトランプ政権を国際的な合意形成に加わるよう導くやり方を採用してきたが、今回のG7サミットでそうした戦略がうまくいかない恐れが露呈した。7月のハンブルクにおける20カ国・地域(G20)サミット開催国として、会議が不調に終わった場合に批判を浴びて、選挙に不利となるリスクを避けるため、今ここで米国の非妥協的態度を改めて指摘した面もある。

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