最新記事

自動車

「空飛ぶ自動車」いよいよ発売、課題は大衆化

2017年4月27日(木)21時00分
アンソニー・カスバートソン

エアロモービル社は、年内に空飛ぶ自動車を売り出す Aeromobil

<スタートアップの「空飛ぶ車」の試作車発表、ウーバーの空飛ぶタクシー構想など、開発競争が本格化している。庶民の足になる日はくるか>

「私の言葉を覚えておけ」とかつてヘンリー・フォードは言った。「飛行機と車を組み合わせた乗り物は実現する。笑うかもしれないが、本当だ」。自動車の大量生産方式の生みの親だった彼は、1940年にこう予言した。自ら「空飛ぶ自動車」の開発に着手したものの、成功を見届けられないままこの世を去った。

フォードが果たせなかった夢が、いよいよ現実になろうとしている。先週、個人向けに空飛ぶ車を開発する2社のスタートアップ企業──スロバキアのエアロモービル社とドイツのリリウム社──が試作車を発表した。今週は米配車サービス大手ウーバーと米グーグルのラリー・ペイジCEOも空飛ぶ車の実用化に向けた構想を表明。ただし、そこに至る道のりは依然、簡単ではなさそうだ。

エアロモービルは20日、モナコで開催された車の見本市で空飛ぶ車の試作車を発表。年内に売り出す計画を明らかにした。同日にリリウムも、初の飛行試験を成功させた2人乗りのモデル「イーグル」の動画を公開した。両社ともプレスリリースで言及しなかったことがある。厳しい航空規則に従いつつ、既存のインフラのなかで空飛ぶ車を実用化するための具体的な方法だ。

この問題を避けたままでは、価格が高く、パイロット免許も必要になるような空飛ぶ車の市場はいつまでたっても拡大しない。だがメーカー側はその前にまずやることがあると信じている。

「初代モデルに求めるのは話題作りだ」と、エアロモービルのステファン・バドツ広報統括部長は本誌に語った。同社にとって初回の生産台数は最大500台、価格は約150万ドルというのが現状では限界だ。「だが将来的には、(免許なしで)だれもが空を飛べる自動運転車の大衆市場を築きたい」

今のところそうしたビジネスモデルで成功を収めているのは、手の届きやすい価格帯の電気自動車(EV)の開発を進める、米テスラのイーロン・マスクCEOだ。彼は現在、独自の事業計画である「マスタープラン」のパート3に進んだ段階だ。最初は最高級のEVを売り出し(ロードスター)、その売上金を投入して中級のEVを発売(モデルS)、そこからさらに価格を低く抑えた新型EVの開発につなげた(モデル3)。

リリウムも、エアロモービルが掲げる空飛ぶ車の未来像を共有している。人々がパイロットとして訓練を受けなくてすむように、オンデマンドの空飛ぶ自動タクシーのサービス展開を目指している。だがそれにも課題がある。「人々の心理的な壁が大きい」とバドツは言う。「無人操縦の飛行機と言われてぞっとするような問題を、一人ひとりが克服する必要がある」

リリウム社の世界初・垂直離着陸(VTOL)式EV


人々は車の自動運転という考え方にもまだ戸惑っている。米ミシガン大学が行った調査によると、完全自動運転車を利用するのに何の心配もないと回答した人は、全体の10%に過ぎなかった。ましてや空飛ぶ自動運転車となれば、その数字はもっと低くなるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、台湾に追加投資と人材育成を要求 通商

ビジネス

10月スーパー販売額2.7%増、節約志向強まる=チ

ビジネス

中国、消費促進へ新計画 ペット・アニメなど重点分野

ワールド

米の州司法長官、AI州法の阻止に反対 連邦議会へ書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中