最新記事

北朝鮮

中国は米国に付くと北朝鮮を脅したか?――米朝戦争になった場合

2017年4月17日(月)11時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

経済制裁などで北朝鮮が委縮したりなどしないことを中国は知っている。北朝鮮は160ヶ国以上と国交を持っている。だから中国にとって北朝鮮に対する有効なカードは「米国側に付くぞ!」という脅しでしかない。

だとすれば、「習近平・トランプ」という舞台の演者は、世界を揺るがす「大芝居」を演じたことになる。

このように考えると初めて、上記のファクターが整合性を持って一つにつながってくると筆者には見える。

もちろんあの北朝鮮が、そう簡単に脅しに乗るとは思えない。今朝(16日朝)にも(アメリカが軍事行動に出ない程度の)ミサイル発射を試み失敗に終わっている。トランプ大統領が言うところの「レッドライン」を越えない程度で「脅しには負けないぞ」という意思表示だろうが、しかし抑制的であるのは、中国が中朝軍事同盟を破るかもしれないという恐怖が現実味を帯びてきているからではないだろうか。目の前には米軍の大軍が押し寄せてきており、アメリカはシリアやアフガニスタンに対しても実にいとも簡単に武力攻撃を断行している。北朝鮮を攻撃しない理由はない。そして中朝首脳会談は5年間も開催されていないという厳然たる現実がある。開催しない理由は、中国がどんなに北朝鮮に「核・ミサイル開発をやめろ」と言っても言うことを聞かないからだ。

習近平のそばには王滬寧(おう・こねい)というブレインがいる。追い詰められた習近平のピンチを、チャンスに持って行くことができる人物だ。

ドナルド・トランプという破格的なスケールで動く男がいたお蔭で、中国は思わぬ形で「新型大国関係」を実現することも不可能ではないと、王滬寧は習近平にアドバイスしたにちがいない。

トランプ大統領の豪胆さが世界地図を変えつつあるが、しかし一方、「中国のしたたかさ」を大統領はまだ経験していない。

万一にも北朝鮮が暴走して戦争になった場合、中国は本当に中朝軍事同盟を破ってアメリカ側に付くことを選べるのだろうか?

中国の王毅外交部長(外相)は14日、北朝鮮をめぐる衝突はいつでも起こり得るとして、ロシアのラブロフ外相と電話会談したと中国の中央テレビ局CCTVが報道した。「すべての関係国を交渉のテーブルに戻すことこそが中露共通の目標だ」と伝えたという。 中露連携もちらつかせるのが、中国のしたたかさだ。

したがって、米中連携は朝鮮半島問題を平和解決に持って行くための北朝鮮への「脅し」ではあろうが、危ない賭けの後、米中のパワーバランスがどう変化していくかも念頭に置いておいた方がいいだろう。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=

ワールド

EXCLUSIVE-米国、ベネズエラへの新たな作戦

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中