最新記事

北朝鮮

「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民の本音

2017年4月14日(金)14時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

金正恩党委員長は4月13日、特殊作戦部隊の降下および対象物打撃競技大会を指導した REUTERS/KCNA

<緊張が高まる朝鮮半島情勢。北朝鮮の一般庶民は情勢について知らされていないようだが、一方で、キツいブラックジョークも出回っている>

北朝鮮の核兵器開発をめぐり、朝鮮半島情勢が緊張の度を増している。

米国が北朝鮮の近海に空母打撃群を派遣したのに対し、朝鮮中央通信は13日、金正恩党委員長が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の「特殊作戦部隊の降下および対象物打撃競技大会‐2017」を指導したと報じた。軽輸送機や武装ヘリも動員されたこの競技大会は、特殊部隊がいつでも、韓国に浸透できることをアピールするものだったと見ることができる。

吹き飛ぶ韓国軍兵士

つまり正恩氏は、「米国がわれわれに手を出せば、南(韓国)は無事では済まない」ということを強調したかったのだろう。

在韓日本大使館は12日、韓国に滞在・渡航する人に向けて最新の情報に注意するよう促す海外安全情報(スポット情報)を出した。これを受け、韓国市民や在留邦人からの問い合わせが相次いだというが、それもあながち的外れな反応とは言えないのである。

とはいえ、こうしたデモンストレーション合戦は、米朝とも計算ずくで行っている可能性が高い。北朝鮮では11日、国会に相当する最高人民会議が開かれた。また25日の軍の創建記念日にはパレードを準備中とも伝えられ、多数の軍指揮官が持ち場を離れた状態にあるはずだ。だからこのタイミングで正恩氏が極端な行動に出ることはない――米国にはこのような読みがあり、北朝鮮側にもまた、米国の真意を読んでいるものと思われる。

それでも、何らかの偶発的な出来事が、予想もしない方向に広がる怖さはある。2015年8月、北朝鮮の地雷で韓国軍兵士が身体の一部を吹き飛ばされた事件をきっかけに起きた、南北間の軍事危機がまさにそうだった。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士...北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

一方、韓国の北朝鮮専門ニュースサイト、ニューフォーカスは、北朝鮮の地方に住む情報筋の話として、一般庶民は情勢について詳しく知らず、社会は平穏を保っていると伝えている。しかしもちろん、米空母の情報に敏感に反応している人々もいる。

そんな人々の中からは、「この機会に米国や南朝鮮(韓国)が平壌の最高人民会議の議場に砲弾1発打ち込めば、(正恩氏ら)北朝鮮の政権は全滅するのに」などといったブラックジョークも聞こえるという。

(参考記事:金正恩氏の「ブタ工場視察」に北朝鮮庶民が浴びせる酷い悪口

仮に戦争が起きれば韓国にも日本にも被害が及ぶだろうが、北朝鮮の人々は、恐怖政治や人災による大災害によって命を奪われる危険と常に隣りあわせだ。本気で戦争を望んでいる人は多くはないだろうが、我々とは違う感覚で情勢を眺めている人も少なくはなかろう。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アップル、EUにデジタル市場法規則の精査要求 サー

ワールド

インドネシア、無料給食で1000人超が食中毒 目玉

ビジネス

フリーポート、インドネシア鉱山で不可抗力宣言、 銅

ワールド

ホワイトハウス、政府閉鎖に備え「大量解雇」の計画指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 10
    9月23日に大量の隕石が地球に接近していた...NASAは…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中