最新記事

ロシア

北方領土の軍備強化に潜むアジア人蔑視の記憶

2017年3月22日(水)11時00分
楊海英(本誌コラムニスト)

2010年に北方四島の1つ、国後島の軍事施設を視察するロシアのメドベージェフ大統領(当時) Mikhail Klimentyev/RIA Novosti/REUTERS

<極東でにわかに高まる中ロの軍事緊張。背後には中国の膨張に対するロシアの複雑な感情が>

「われわれはクリル諸島(千島列島と北方領土のロシア名)防衛に積極的に取り組んでおり、今年中に1個師団を配備する」――ロシアのショイグ国防相による先月下旬の下院報告の意図をめぐり、臆測が飛び交った。

日本は菅義偉官房長官が「北方四島のロシア軍の軍備を強化するものであれば、わが国の立場と相いれず遺憾だ」と外交ルートを通じて抗議した。稲田朋美防衛相も今月20日に東京で開かれる外務・防衛閣僚協議(2プラス2)で、ロシアの真意について説明を求める方針という。

ただ、ロシアの軍事的な動きは日本だけを牽制しようとしたものではないようだ。中国の人民日報系の環球時報は1月中旬、中国がICBM(大陸間弾道ミサイル)東風41を東北部の黒竜江省に配備したと報じた。この最新型ミサイルはロシアの軍事技術をそのまま導入して「改良」したもの。そんな武器が国境近くに配備されるのを喜ぶロシアの政治家や軍人はいない。

中国軍事の専門家は東風41配備の目的について、韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を進める米軍に対抗するためと分析する。米中が戦火を交えれば、ロシアは必ず巻き込まれる。それを見越して、ロシア軍はクリル諸島への軍隊増派を決めたとも解釈できよう。いくら安倍晋三首相とプーチン大統領が「仮想の蜜月関係」にあるとはいえ、ロシアは米同盟国である日本に配慮はしないだろう。

それだけではない。一昨年秋には、北西部の新疆ウイグル自治区でも東風41の姿は確認されていた。表向きは少数民族ウイグル人の「祖国を分裂させる活動」を抑えるためとされている。だが自治区に隣接するキルギスやタジキスタンなど、旧ソ連諸国と対テロの名目で軍事演習を繰り返す中国軍の存在に、ロシア軍は神経をとがらせている。中国製のミサイルがロシアのいかなる核施設にも到達できるようになった現在、脅威は現実味を帯びている。

【参考記事】トランプ豹変でプーチンは鬱に、米ロを結ぶ「スネ夫」日本の存在感

扇情的な習近平の演説

中国はロシアをなだめようと、説明を怠らない。中国外務省の報道官はいつも「中ロの伝統的な友好関係」を強調。ロシアのペスコフ大統領府報道官も「中国は友好国で、中国軍の発展をロシアは脅威として受け止めていない」と応じている。しかし、実はロシアは安心できないでいる。今回の緊張の奥底に、現在の米中ロの軍事的対立を超えた「黄禍論」の応酬の歴史を見ているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は小幅安、OPECプラス増産観測や米関税を

ビジネス

第一生命HDと丸紅、国内不動産対象の4000億円フ

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、短期的な過熱感で利益確定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中