最新記事

EU離脱

イギリスとEU、泥沼「離婚」交渉の焦点

2017年3月30日(木)19時00分
ジョシュ・ロウ

メイ首相に扮したEU離脱反対派(3月29日、ロンドン) Stefan Wermuth-REUTERS

<イギリスがついにEUに離脱を通知した。原則2年間の交渉期限の間、一寸先は闇。イギリスがEUの一部だからこそイギリスに住めている人はどうなるのか、関税同盟離脱後のイギリスからの輸出はどうなるのか、疑問点をまとめた>

昨年6月の国民投票でイギリスがEU離脱を決めてから約9カ月。ついに水曜、テリーザ・メイ英首相は欧州理事会のドナルド・トゥスク議長(EUの大統領)に書簡を送り、正式な離脱通知に踏み切った。

原則2年を上限と定めた離脱交渉は、イギリスとEUの間だけでなくイギリス国内やEU域内でも内輪もめは必須だ。

以下に、5つの争点をまとめた。

■イギリスの「手切れ金」

本物の離婚さながら、離脱交渉でもいちばんもめそうなのがお金をめぐる問題だ。これまでイギリスは、自国に割り当てられる額以上の拠出金をEUに支払ってきた。2016年の数字を見ると、英政府はEUに131億ポンド(163億ドル)を拠出したのに、EUから受け取ったのはわずか45億ポンド(56億ドル)程度だった。

そうした不公平感は、他のEU加盟27カ国の間でも広がりつつある。イギリス同様に負担が過剰になるスウェーデンも最近、EUの予算を全体的に縮小するよう求めた。オーストリアは難民受け入れを分担しない加盟国に対して、懲罰的にEU予算の配分を減額すべきだと主張した。

慰謝料への異なる思惑

加盟国の反発を抑えるため、EU側はイギリスからカネを絞れるだけ搾り取ろうとする可能性がある。イギリスが未払いの600億ユーロ(647億ドル)の分担金を「手切れ金」として支払う是非をめぐっては、すでに議論が起きていて、交渉でも最優先の争点の一つになりそうだ。さらにイギリスではEUの個別の事業費の負担を継続すべきかどうかについても、疑問の声が上がっている。

【参考記事】メイ英首相が選んだ「EU単一市場」脱退──ハードブレグジットといういばらの道


一定の拠出金を出すのと引き換えに、メイがEUから自国に有利な条件を引き出す可能性はある。一方でイギリスの世論や離脱派のタブロイド紙は、イギリスがEUから桁違いの請求額を突き付けられるそうだと反発しそうだ。

【参考記事】スコットランド2度目の独立投票で何が起こるか

■移民の権利保障

移民の処遇も、離脱交渉で最優先事項になりそうだ。イギリスに住むEU加盟国の国民とEU域内に住むイギリス人の権利の保障は、当初から議論の焦点になってきた。EUが掲げる「移動の自由」は、域内であれば住む場所や働く場所を自由に選択できると定めたルールだ。この制度を利用してきた移民らは、自分たちが今いる場所を追われることになるのを恐れている。

【参考記事】駐EU英国大使の辞任が示すブレグジットの泥沼──「メイ首相、離脱交渉のゴールはいずこ」

英政府はEU加盟国の出身者がイギリスにとどまる権利を保障したいと繰り返し述べてきた。一方で、それはあくまでEU側が域内に住むイギリス人の権利も同様に保障するのが前提とも牽制していた。EUや加盟国はいまも静観しているが、それがいかに差し迫った問題か十分すぎるほど分かっている。特にポーランドなど、多くの国民がイギリスに出稼ぎに来ている東欧諸国にとっては切実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長

ビジネス

メルセデス、2027年に米アラバマ工場で新車生産開

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中