最新記事

インタビュー

難民を敵視するトランプ時代を、亡命チベット人はどう見ているか

2017年2月24日(金)15時32分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

takaguchi170224-2sub.jpg

インタビューに答えるセンゲ大臣 撮影:筆者

トランプ政権は「中国に対して現実的」

アメリカにトランプ新大統領が誕生したが、慣例を破って台湾総統と電話会談を行ったかと思えば、先日の習近平中国国家主席との電話会談では、従来の発言を翻して「一つの中国」政策の尊重を表明するなど、その対中国政策はきわめて不透明だ。トランプ時代のアメリカはチベット政策についても大きく変更するのだろうか。

◇ ◇ ◇

センゲ大臣:
「レックス・ティラーソン新国務長官は就任演説でチベット問題に対する支持を継続すると表明し、またダライ・ラマ法王に面会すると発言しました。我々もトランプ大統領と新国務長官にお祝いの手紙を送りました。米高官と法王との会談は今後も続きますし、チベットの自由及び「中道のアプローチ」(インタビュー前編参照)に基づく法王と中国政府の対話について、米国は支持を継続するでしょう。

ただし、トランプ氏の政権メンバー、そしてトランプ氏自身の過去の中国に関する発言、フリン国家安全保障顧問(インタビュー後に辞任)やマティス国防長官の発言も見ると、安全保障面ではタカ派がそろっている一方で、中国に対して現実的な見方をしているという側面もあります。

(現実的な対中外交と従来のチベット政策との)対立はあるかもしれませんが、アメリカ政府は日本政府とともに中国に対して人権問題やチベット問題を提起することをためらわないと考えています」

香港が前例か、それともチベットが前例か

ダライ・ラマ14世が提唱する中道のアプローチは、香港の一国二制度を念頭に置いたものだ。ところが中国の全国人民代表大会常務委員会の決議で、香港の議員の免職が実質的に決定されるなど一国二制度は揺らぎつつある。前例となる香港が危機にあるなか、中道のアプローチの有効性も問われているのではないか。

【参考記事】なぜ中国は香港独立派「宣誓無効」議員の誘いに乗ったか

◇ ◇ ◇

センゲ大臣:
「私はいつもこう言います。「中国について理解したければ、チベットの物語を知らなければならない。チベットのことを知らなければ、中国のことは本当に理解したことにならない」とね。

1951年に中国政府とチベット政府の間で「17カ条協定」が結ばれました。これは実質的に一国二制度です。この第4条によれば、「チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。ダライ・ラマの固有の地位および職権にも中央は変更を加えない。各級官吏は従来どおりの職に就く」とされていました。

我々はこの協定がそもそも中身のないもので、不法なものだと思っています。なぜならば、この協定は力による強要の下で署名されたからです。しかも調印後、協定は毎年骨抜きにされていきました。1959年にはすべての協定が反故にされ、ダライ・ラマ法王はインドに亡命するしか道がなくなってしまいました。

同じように一国二制度が香港に与えられたわけですが、教訓はすでにあるわけです。中国の裏切りはすでにチベットで起きていたことです。香港の人々の懸念は無理からぬところです。

しかし、チベットの状況は違います。中道のアプローチを採択した理由は、現状があまりにひどすぎるからです。チベットでの弾圧は非常に厳しいもので、145人ものチベット人が焼身自殺するほど生活はあまりにみじめです。

最近、中国政府はラルンガル僧院(中国四川省のチベット族自治州にあるチベット仏教の僧院)の一角を取り壊したと伝えられています。そこで1万2000人の僧が5000人に減らされました。漢民族の信者も排除されました。

チベット人にとって、現状はあまりにひどいのです。したがって、完全な自治を求める中道のアプローチが実現すれば大きく改善されます。我々から見れば自由をすでに持ち得ている香港とは状況が違うのです。ただ、中国政府との交渉は一筋縄ではいかないでしょう。我々は1959年に経験済みなのでよく分かっていますし、慎重に交渉する必要はあります」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中