最新記事

未来技術

インク不要、光で繰り返し印刷可能な紙:米中の研究チームが開発

2017年2月9日(木)17時00分
高森郁哉

Wang et al. ©2017 American Chemical Society

紙にナノ粒子のコーティングを施し、紫外線を照射して文字を印刷する技術を、米国と中国の研究者チームが開発した。熱で文字を消去でき、紙は繰り返し印刷できる。アメリカ化学会(ACS)が発行するナノ技術の学術誌『ナノ・レターズ』に論文が掲載され、 科学技術系ウェブメディアのPhys.orgなどが報じている

印刷の仕組み

論文を共同で執筆したのは、米国のカリフォルニア大学リバーサイド校とローレンス・バークレー国立研究所、および中国の山東大学の研究者ら。研究チームは、青い顔料の一種であるプルシアンブルーと、光触媒活性物質の二酸化チタン(TiO2)それぞれのナノ粒子を均等に混ぜ、普通紙の表面にコーティングした。この状態の用紙は青一色に見える。

用紙の一部に紫外線が当たると、表面から電子が飛び出し、電子が周辺のプルシアンブルー粒子も運び出すため、その部分だけが白く変色する。インクで文字を印刷するのとは反対に、文字以外の背景部分を光で"印刷"すると、「白地に青文字」の読みやすい状態になる。プルシアンブルーの代わりに別の色の顔料を使うと、その色の文字を印刷できる。

加熱して元通りに

一度印刷された紙は、少なくとも5日間は同じ状態を保ち、その後は一定条件下でゆっくりと青一色に戻る。より早く印刷を消去するには、摂氏120度で約10分間温めることで、元の状態に戻る。

さらに、この光で印刷するプロセスは、80回以上繰り返すことができるという。

コスト面の優位性

論文執筆者の一人、カリフォルニア大のヤドン・イン教授はPhys.orgの取材に応え、「光で印刷可能な紙は、コストの面で従来の紙と張り合える」と述べた。コーティングに使う材料は安価であり、普通紙にコーティングを施す際も浸したり噴霧したりといった単純な方法が使えるので、製造コストも低く抑えられるという。さらに印刷プロセスも、インクを使用しないことから、従来の印刷よりも費用効果に優れるとしている。

イン教授は、「われわれの次のステップは、この再書き込み可能な紙をより高速に印刷できるレーザープリンタを開発すること。また、フルカラーの印刷を実現する効果的な手法も研究していく」と述べている。

環境改善の効果も期待

従来の紙の生産と印刷物の処理は、環境に大きな悪影響を及ぼしてきた。Phys.orgによると、米国で伐採される材木の約3分の1が、紙とボール紙の原料になっている。廃棄された紙は埋め立てゴミの約40%を占めるうえ、古紙を再生する際のインク除去プロセスも公害の原因になっているという。

イン教授は、「我々の研究は、現代社会の経済と環境に大きなメリットをもたらすと考えられる」と語っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中